届かなかった手紙――永い時の果てに
「それ、まだ持ってるのですね」
サイドボードにのせられた、だいぶ色あせた三枚の封筒を指し示され、少しだけ苦笑いをする。
「まあ捨てて、とは言いいませんけど……」
「捨てる気はないよ。ずっと、ね」
そういうと、彼女は気恥ずかしそうに顔を伏せた。
その様子は、記憶するかつてと何ら変わらない。
「君が帰ってこれたのは、この未練があったからだと思うから」
「もう何十年の前のことよ」
「奇跡が起きたことの証拠みたいなものだからね、これは」
彼女が目覚めるまでの五年間、ずっとその隣で、返事を待ち続けていた。
彼女の両親が諦めていてもなお、それでも諦めずにいて――奇跡は起きた。
それから、数十年。
それからも色々あったが――今こうして彼女が傍らにいてくれることが、何よりも嬉しい。
あるいはもうそう遠くない未来に、また離れ離れになるとしても――彼女の存在を喪ったと感じて過ごす五年のことを思えば、何ら怖れるものではなかった。
「ありがとう、帰ってきてくれて」
奇跡から数十年。
共に過ごした日々は――あの五年を完全に上書きしてくれた。
そして、それ以上の喜びを与えてくれた。
「私こそ――待っていてくれて、ありがとう。あなた」
目を閉じる。
多分ほどなく、私は旅立つだろう。
今度もまた、待つことになるのだろうが――きっと彼女はまた来てくれる。
それは、とても嬉しいことに思えた。
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