届かなかった手紙――始まる前に終わる

 目の前に三通の手紙があった。

 スマホによるメッセージ交換が当たり前のこの時代に、紙で綴られた手紙。

 きれいな封筒に入った、少し可愛いデザインの便箋に綴られたその手紙は、いずれも同じ人物から同じ人物へ向けられたもの。


 投函日時はほぼ同じ。

 一通目が三日前の早朝、二通目がその昼過ぎ。最後の一通は夕方のはずだった。

 ただ、その内容は大きく異なる。


『告白してくれたこと、とても嬉しいです。

 私もあなたのことが好きです。

 だからこれから、お付き合いしていきたいです。


 追伸

  できればすぐお電話ください』


『告白してくれたこと、とても嬉しいです。

 ただ、あなたは私にはとてももったないと思うから。

 ごめんなさい。

 きっともっといい人がいると思います』


 全く真逆の内容の二通の手紙。

 普段一緒におちゃらけている彼女からは、想像もできないほど丁寧なその文章。

 いったいどういうつもりだったのかは――届くことのなかった三通目で分かった。


『二つ手紙が届いたと思うだけど、どっちが先だったかな?

 ちょっとした運試しをしてみました。

 先に届いた方が私の返事だよってことで。

 ま、先に出したのがOKの方だから、

 多分そっちじゃないかと期待しているんだけどね。

 それでも順番変わっちゃったら、それが運命かなぁってことで』


 しかしこの手紙は投函されることはなかった。

 この三通目の手紙を出しに行く、まさにその道中で彼女は交通事故に遭ったのだ。

 そして――。


「アホだろ、お前」


 彼女を前に、それ以外何も言えなかった。

 そして、一言も発さなくなった彼女からの返事は――ない。


 一通目が届いて急ぎ電話をしても、電話の向こう側からは『電源が入っていないため繋がらない』の機械音声のみ。

 当然だろう。

 その時彼女の電話は、事故の影響で粉々になっていたのだから。


 彼女はもう何も喋れない。

 ただそこに――在るだけだった。

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