居場所を求めて

第83話:ハルト王国に入って

 コマンドホークを倒した後は特筆するほどのこともなく、僕たちはウルト山地を越えることができた。

 途中でミマツがうるさいとか、シュッケさんがやっぱり胸の大きさをアピールしようとしてきているような気がしたりとか、まぁそういうことはあったんだけどね。


 どこが境界だったのか分からないけれど、僕たちは無事に不法出国することができ、いまではハルト王国内に入っている。


 そしてハルト王国内に入ったら僕たちと『当意即妙』御一行の進む方向は違うということを僕は聞いていた。


「焦茶ぁ、俺らは今ダスティの街を拠点にしているから近くに来た時には顔出して挨拶に来いよなぁ?」


「失礼銀髪さん、僕の名前はケイダですって。そんなことも覚えられないのにパーティのリーダーが務まるんですかぁ?」


 何日も一緒だったのでさすがに免疫ができてきて、僕の方も言い返せるようになってきた。


 たまに口調が移ってる気がして嫌な気持ちになるんだけど、ミマツの喋り方ってなんか癖になるんだね。


 コイツは決して友達とかそう言うんじゃないけれど、友達と軽口を叩き合って喧嘩してるように見えるけど実は仲良いみたいな関係に憧れるんだよなぁ。


 というかさっきの言い返しって中々良かったと思わない? ミマツの奴ダメージ受けたよね?


「ハーレムかと思いきや女の子に守られる赤ちゃんパーティをしてる奴には言われたくねぇなぁ」


 そしたら僕が最も気にしていることをミマツに言われて目から汁が出てきました。




 

 ミマツ以外の人には丁寧にお礼を言って別れた後、僕たちも進み始めた。


 ちなみに僕を泣かせたミマツはユミータさんに殴られていたので良い気味だと思ったけれど、結局また女性に守られただけのことに気がついて僕はちょっと傷ついた。


 そんな僕の様子は気にせずカルディアさんが明るく口を開く。


「無事にハルトに帰ってこられたな。私たちの目的地はアステルだけど、その手前のサテラスで知り合いと合流する予定なんだ。一緒にそこに向かうということで問題ないよな?」


 僕が頷くとソラナが言った。


「ステラ自治区の玄関口と呼ばれる都市ですよね?」


「その通りだ。アステルと並んでステラ自治区でも栄えている都市になる」


「自治区内の物流の拠点になっているから色んなものが集まる場所なの。休憩がてら買い物を楽しむと良いと思うわ」


 カルディアさんとシュッケさんが情報を教えてくれる。

 これまでの旅で色んな街をまわってきたのだけれど、基本的には移動の繋ぎだったので無難そうな宿と食事処を見つけて休憩するので精一杯だった。


 だけどよく考えるとカルディアさん達は地元の人なので名物にありつけるんじゃないかと期待が高まる。


 そう思いつくと突然旅行感が出てきたように感じた。

 油断するのは良くないけれど、せっかく異世界に来たのだから楽しみたいという気持ちがあるし、神様に人の姿になれる能力を貰ったのでそれも活かしたい。


 僕はるんるん気分で都市サテラスに向かっていった。





 ハルト王国は豊かな国のようで、これまでに進んできたスパーダ王国と遜色ない様子だった。


 スパーダ王国は陽気な人が多いような気もしたけれど、もしかしたら気温が高い地域が多いからなのかもしれない。

 それにいま世界で最も力を持っているのはスパーダ王国らしいから景気も悪くないだろうしし、国民の気分も悪くないだろう。


 シュッケさんから聞いた話によると、十年くらい前に即位した王様がすごく優秀で、あっという間に国を豊かにしたんだって。

 政治に詳しくなくてもそうやって誇れるものがあると国の人も何となく明るくなるんじゃないかなぁって思ってる。


 対するハルト王国は穏やかな人が多いみたいでスパーダと比べるとのんびりした空気なのかもしれない。気候も温暖な場所が多いとも聞いた。


 そんな国の中にあるステラ自治区にはどんな人がいるんだろうと僕は想像しながら楽しく歩いた。


 カルディアさんもシュッケさんも前に進めば進むほど笑顔を見せるようになって、故郷に帰れるのが楽しみで仕方がないようだった。


「もう少しでサテラスに着きますね。あと一日くらいとおっしゃってましたか?」


「あぁ、そうだ! みんな元気にしているかなぁ!」


「帰ったらみんなと遊ぶんですか?」


「いや、今回は家族の大事な用事があって呼び出されたんだよ」


 軽い気持ちで聞いたらカルディアさんが少し真剣な様子になったので、僕はちょっと慌てた。


「そ、そうだったんですか。結構頻繁に帰ってくるんですか?」


「うーん。そうだなぁ。まぁ何ヶ月かに一回は帰ることにしているんだが、長期の依頼が続いてしまうと間が空いてしまうこともあるなぁ。今回はどれぐらいぶりだったかな?」


「今回は三ヶ月ぶりね。比較的早いほうじゃないかしら」


 シュッケさんも話に入ってきて、またすぐに楽しい雰囲気になった。

 女性ばっかりだからと言うのもあるんだけれど、聞いちゃいけないことに触れちゃう気がしていつも怖いのだ。


 そんな感じでワイワイと話しているとカルディアさんがソラナの方を向いた。


「そういえば、確かソラナはアステルにいる親族の元を訪ねるって言っていたけれど、それって誰なんだ? 名前を言ってくれればその人のところまで案内できるかもしれないぞ。ほら、私たちってそれなりに有名だし……」


「あれ、お伝えしていませんでしたっけ? 領主様です。ステラ自治区の領主をされているロコロ・アステリアス様ですね」


 その名前を聞いた瞬間、カルディアさんとシュッケさんの纏う空気が一変した。

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