第82話:チョロイ?
コマンドホークを倒した後でカルディアさん達に褒められた後、ミマツが僕の横に来た。
また嫌味を言われるんだろうと僕は身構えていたけれど、奴は僕にハイタッチを要求し、僕もそれに応えてしまった。
僕が呆然としているとミマツは踵を返し、戻ってしまった。
「憎たらしい奴だろ? せっかくやり込められるチャンスだったのに先手を取ってくる」
カルディアさんが横に来て笑いかける。
「途中からミマツも分かっていたはずだ。私やシュッケの目がよほど曇っていない限り、ケイダに力がないはずがない。だからお前の貢献が見え次第、ああいう風にするつもりだったんだろうな」
「そ、そんな……。あれも演技ということですか?」
泣きそうな気持ちで言うとカルディアさんが『当意即妙』の皆さんがいる方を指差した。
そこには仲間達と肩を叩き合い、労うミマツがいた。
「あそこだけを切り取れば気持ちの良い光景だろ? アイツが何を考えてるのかは私にもよく分からんが、打算だけではここまでやってこれなかっただろうと思っているよ」
そう言われて僕はミマツという人間がよく分からなくなった。
何故あんな風に振る舞い、そして性格が裏返ったかのように仲間を讃えるのだろうか。
「まぁ、どうで良いですけどね。アイツのことはいつか泣かせます」
「はっはっは! アイツよりも上のランクになったら盛大に煽ってやれば良いさ! 慣れたら、言いたいことを言える奴って面白いと思うようになるぞ」
カルディアさんはまた僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
ちなみに僕の方がわずかに背がでかいので他の人から見たらどう見えるのか分からない。
そんな感じで僕は消化不良の気持ちを抱きながらも、十分な満足感を感じていた。
◆
ミマツとのやりとりの後、僕は他の人たちにベタ褒めされた。
特にジョナスさん夫妻は僕の活躍を目の当たりにして大層興奮した様子だった。
「ケイダさん、素晴らしかったですよ! 私はみなさんのおかげで手が空いていましてので、コマンドホークが撃たれる様子をしっかり見ることができたんです! 失礼ながらお会いした時は心配の気持ちが大きかったのですが、今はあなたがいて良かったと思っています!」
「主人はさっきからこればっかりなんですよ? でも気持ちは分かります。だってコマンドホークの特殊個体ですからね。私どもも何度かコマンドホークを見たことがありますが、あんなに素早く動く個体がいるとは思いませんでした」
褒められている最中に知らないことがあった。
デリーサさんはあのコマンドホークのことを特殊個体だと言っているけど……そうなの?
だけど僕が疑問を抱いていることなど気づかずにジョナスさんは続ける。
「依頼料についてシュッケさんとお話した時には失礼なことを言ってしまいました。ケイダさんのお力でしたらこれから冒険者としての格も上がっていくでしょうし、何か入り用でしたら私どもにお申し付けください」
ジョナスさんとデリーサさんは二人できっちり揃った礼を見せてくれた。
そんなことをされると恐縮してしまう。
「い、いえ。どこの馬の骨とも知れぬ男とシュッケさん達を同列に扱おうというのも勇気がいると思いますので、問題ありませんよ」
そんな風に僕が言うとジョナスさん達は再度頭を下げた。
「ありがとうございます。失礼をしたのはこちらの方なのに許していただけるとは……。無礼な物言いになってしまうかもしれませんが、今回の件で私はケイダさんを応援したい気持ちになりました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
むず痒い気持ちになったけれどそのままでいるのも良くないかと思って、僕の方も頭を下げておいた。
『当意即妙』のみなさんからも良い言葉をもらってニヤニヤしていると、ソラナ、シュッケさん、カルディアさんが近づいてきた。
カルディアさんもニヤニヤしているけれど、僕とは違う理由でそうなっているようだった。
「ソラナ、気をつけたほうが良いぞ。ケイダはどうやら結構チョロイようだ」
「はい。気をつけます。褒められたら踊らされてしまうかもしれないので、私が見ていたほうが良さそうです」
「打算的な子もたくさんいるし、考えものね。ケイダくんが騙されないと良いのだけれど……」
僕を見ながらそんなことを話し出す三人を見て、ちょっと気まずくなった。
正直自分がおだてに弱いという自覚があるので、どうしたら良いのか分からない。
褒められた経験があんまりないから頭がフワーってするんだよねぇ。
「それでミマツにもやり込められていたしなぁ。あとから思い出して怒ってたけど」
「ケイダくん。変な人に声をかけられてもついていっちゃダメだよ?」
ソラナにすら揶揄われて僕は吹き出してしまった。
笑っちゃったけど、でも僕ってそんなに危なく見えるのかな?
常識ないのは分かってるけど、それなりに考えてもいるんだけどなぁ。
まぁでもソラナはおどけていただけで、深い意味があって言った訳じゃなさそうだったので流してしまうことにした。
「何はともあれ、敵を倒せて良かったですよ。これでハルト王国にも行けますね」
「あぁ、そうだな。ユミータがいま偵察に行ってくれているが、他に強力な魔物はいないだろう」
「ここまで来たらもう少しですから頑張って山道を進みましょうね」
そんな風に話しながら僕たちがスパーダ王国を出る時が来た。
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