第81話:勝利と仲間

 コマンドホークに向かって放たれたセミ弾の僕は、敵が到達するだろうという場所に向かっていった。


「まずい! ちょっとズレてる!」


 だけど、近づくにつれて場所が微妙にズレているということに気がついた。ちょっと前すぎるのだ。


 僕はほんの少しだけ羽を広げてバタつかせる。

 それで減速を図ろうとしたんだけれどそのブレーキが効き過ぎてしまった。


 今度はお尻から魔力を噴射して加速する。

 するとこの軌道なら間違いないという謎の感覚が芽生えてきて、僕はそのまま真っ直ぐに突き進んだ。

 なんか慣れてきたのか思考も加速している気がする。


 そう思った刹那、身体を硬化させた僕はコマンドホークの頭に渾身の体当たりをかまし、首から上を吹き飛ばした。


 バァーン!という音が後から聞こえてくる。

 もしかして音速超えた?と思ったけれど、多分普通に超えているはずだ。


 狙撃が成功した快感に身を委ねながら僕は束の間のウイニングフライを堪能し、人の意識が強くなるのを感じた瞬間、そちらに主導権を渡した。


 頭を失ったコマンドホークが墜落していくのがスコープ越しに見える。

 落下先を見るといつのまにかカルディアさんがそこにいて、槍を構えている。もう死んでいると思うけれど、念のためトドメを刺すのだろう。


 僕は串刺しになる鳥を見ながらゆっくりと息を吐いた。




 それから僕は強そうな敵を順番に狙撃し、数を減らすのに貢献していった。


 コマンドホークと比べると、カルディアさん達と対峙する魔物を攻撃するのは容易く、他のことを考える余裕さえあった。


 それは狙撃の心臓に向かってホーミングするという能力がさっきは働かなかったことだ。

 これまで何度も魔物と戦ってきたけれど、魔物に対してあの能力が発動したことはなかった。

 最初もその次もあの力が発揮されたのは相手が人の時だった。


 僕は記憶を何とか掘り起こし、神様の言葉を思い出す。


『願い通り、見えない距離にいるの心臓を撃ち抜く力になります』


 多分この力は人を攻撃する時にその真価を発揮する。

 僕にはそう思えてならなかった。


 魔物の数が減ってくると、魔物と人が入り乱れるようになった。

 流石に誤射が気になるので、僕は銃を下ろし、元の場所に戻ることにした。





 装備を整えた僕はみんながいる場所に戻って行った。

 そこでは全員が前に出て固まり、シュッケさんを守っていた。


 シュッケさんは魔力を練って強力な魔法の準備をしているようだ。

 よく見ると手には鞭のようなものを持っている。鞭といっても長いやつじゃなくて馬とかに使うような先が平べったいやつだ。

 でも僕が知っているものよりはかなり短いように見える。

 

「攻撃します!」


 聞いたことのないほど鋭い声をあげてシュッケさんは足を踏み出した。

 前にいたカルディアさんとミマツが道を開ける。


 手に持っている鞭からはバチバチという音がなり、紫の閃光が上がっている。

 シュッケさんはその鞭を振りかぶり、大きく横に薙いだ。


「紫電一閃!」


 鞭の軌道に沿って赤く輝く電気の光が走り、すべての魔物は感電した。


「か、かっけぇ……」


 僕は思わず声を出す。

 声はほんわかしているのに出した技は僕の心を揺さぶるものだった。

 正直マネしたい。


 だけど、あの白ムクドリの電気攻撃と比べると威力はかなり低かった。

 攻撃されてもあれなら問題なく耐えられると思う。


 やっぱりあの小鳥はこの世界でも有数の実力を持っていたと考えるのが良さそうだ。

 っていうか僕ってなんか鳥とばっかり戦ってない?


 まぁ何はともあれ、敵は全滅した。

 これでスパーダ王国からも無事に出ることができるようになるだろう。




「ケイダ、戻っていたのか!」


 最初に僕に気がついたのはカルディアさんだった。

 ソラナはおそらく魔法を使いすぎてフラフラで、シュッケさんも少し疲れているようだった。

 カルディアさんもかなり動いていたはずだけど結構元気ですね。


「すごかったな! やるんじゃないかと思っていたが、本当に一撃でコマンドホークを仕留めるとはな! すごい奴だ!」


 そう言って僕の頭をガシガシと撫でた。

 見た目はかわいらしいけど、中身は筋骨隆々のおっさんみたいなところがあるんだよなぁ。


 それからソラナとシュッケさんも僕の存在に気がつき、僕を褒めてくれた。


「ケイダくんのおかげで早く片がつきました。コマンドホークのために用意していた魔力を使って敵を殲滅できましたしね」


 シュッケさんは胸を張ってそう言った。

 やっぱりこの人はやたらと胸を強調してくる気がする。

 シュッケさんも控えめに僕の頭をポンポンと撫でてくれた。僕って弟みたいなのかな?


「ソラナ、上から見ていたよ。魔法すごかったね! 使えるのは知っていたけれどあんなに戦えるだなんて……!」


「私もびっくりしてるの。お母さんにはまだまだねって言われて育ったし、村の人も魔法を使うのが上手だったから……。でも良かった。これで私も戦力になるね」


 ソラナは嬉しそうだ。確かに僕だけでは目が届かないことが多そうだし、ソラナが魔法の訓練をするのは良いのかもしれない。

 アービラの時みたいになるのを避けるためにはやれることをやっていきたい。


 ソラナのあまりの可愛さに胸がキューっとなった僕はつい彼女の頭をポンッと撫でてしまった。


 うわー! 何やってるんだ僕は!

 魔が差してこんなことをしてしまった!


 い、いやね。カルディアさんとシュッケさんが悪いんですよ。

 あの二人が僕の頭を撫でるからさ……。


 頭を高速に動かして言い訳を考えていたんだけれど、ソラナは目を細めながら僕の手を受け入れてくれた。


「うわぁ、かわいい……」


 呟きも漏れてしまった。


 ソラナはかわいいなぁ。

 今日は頑張ったなぁと思って、戦いが終わった喜びを噛み締めていると突然横から声が聞こえてきた。


「――おい、焦茶ぁ」

「うわっ」


 声の方に目を向けるとミマツがいた。

 いつからそこにいたんだろう。


 何にせよ僕のこの幸せな気持ちを崩しにやってきたに違いない。

 でもさ、僕はちゃんと仕事を果たしたよね?

 多分だけど序盤にコマンドホーク倒したのって大きいよね?


 よし。今までの鬱憤を晴らすためにここは盛大にミマツを煽ってやろう。

 そう思って決意した瞬間、ミマツは口を開いた。


「お前、すげえじゃねえかぁ! まさかコマンドホークを一撃とはなぁ! やるなぁ!」


 奴はそんなことをのたまった。

 そして両手をあげて僕にハイタッチを要求する。


 完全に想定外の行動に出てきたミマツを前にして僕はどうしたら良いのか分からなくなり、とりあえず両手を上げた。


 バチーン!


 ミマツはかなり強く僕と手を合わせたので、音は山の奥の方まで響いていった。


「焦茶ぁ、お前の実力は本物だ! この俺が認めたんだからなぁ!」


 何言ってんだコイツ。ふざけんなよ。

 そういう気持ちもあったんだけれど、一緒に戦った仲間とハイタッチで勝利を喜ぶというシチュエーションに憧れていた僕は、不本意ながらも嬉しくなってしまった。

 

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