第78話:姉御

 商人のジョナスさん夫妻、そして『当意即妙』の人たちと朝を迎えた僕たちは、スパーダ王国の国境を越えるために障害となる魔物の討伐をすることになった。


「それでミマツ、どんな作戦にするつもりだ?」


 戦いの準備が整った後、全員で集まるとカルディアさんがミマツに聞いた。


「そうですねぇ。やはりコマンドホークは『桃花』のお二人とそこの地味焦茶達にお願いしてぇ、俺らは周囲の魔物を相手にするのが良いんじゃないですかね」


 ミマツは僕をバカにするような顔で見てくる。地味焦茶とは僕のことだ。

 こいつの性格の粘着性が喋り方のねちっこさに出ている気がする。


「そうか。ジョナスさん達の護衛は足りそうか?」


「えぇ……ジョナスさんもデリーサさんもある程度の戦闘経験がありますので、バラックとルーシーがいれば問題ないでしょうねぇ」


 確かにジョナスさん夫妻は腰にナタみたいな刃物を差している。

 森を切り開くのにも使えそうだけれど、魔物にも効果があるだろう。


「分かった。それじゃあ、こうするのが良いだろう。『当意即妙』はジョナスさん達を守りながら魔物を倒す。我々は溢れた魔物を相手にしながらコマンドホークを仕留める」


「二人をお守りしながら群れた魔物の相手ができるんですかぁ?」


「……戦闘が始まってみれば分かるさ。二人はお荷物なんかじゃない。この戦いの核だ」


 カルディアさんが言い切った。

 カルディアさんは見た目はかわいい系の人だけれど芯のある格好いい人だ。姉御って呼ばせてもらおうかな。


 ミマツはそんなカルディアさんを見て苦笑いを浮かべた後、何も言わずに準備を始めた。

 気圧されたようでもなかったから言い返してくると思ったんだけど、そんなことなかったら肩透かしだ。




「よし、じゃあ話はついたことだし、私たちは私たちで作戦を整理しようか。……シュッケ頼む」


 作戦の大枠をカルディアさんが話したので、今度は僕たちの中でどう動くかを話し合うようだ。

 リーダーはシュッケさんだと思っていたけれど、さっきはカルディアさんが話していた。

 二人の中では多分役割分担があるんだと思うけれど、それがどういうものなのかはよく分かっていない。


「そうね。まずカルディアちゃんと私で魔物の対処をしましょうか。私の魔法でコマンドホークを仕留めるとしたら溜めが必要になるから、ある程度数を減らさないといけないと思う。ソラナちゃんは私に合わせて良いから、できる限り魔法を使ってもらえるかしら? 誤射だけ避けてもらえればあとは私たちがフォローするから」


 シュッケさんの話を聞いて、ソラナは頷いた。

 彼女も戦いに出るということに僕はちょっとだけ不安な気持ちになったけれど、カルディアさんとシュッケさんが良いというのであれば問題ないだろう。

 ソラナと彼女達との関係性を見ても、ソラナを優先して守ってくれそうだ。


 僕はどうするのかなぁと思っていると、カルディアさん、シュッケさん、ソラナの三人が同時に僕を見た。


「ケイダくんは私たちとは別行動してください。狙いはコマンドホーク一択。敵にバレないように仕留めてくれたら最高だけれど、あの魔力を目の当たりにしたら魔物に対してもかなりの牽制になると思います」


「えっ、僕だけ単独行動ですか?」


「はい。ケイダくんの力は強力ですが、一度見ただけではうまく作戦に組み込める気がしません。なので、ケイダくんの思う通りに動いてみてください。『当意即妙』と私たち『桃花』がいれば倒せる敵なので気負う必要はありません」


 シュッケさんは優しげな顔を僕を見つめている。時たま見せる悪魔のような表情とは全く違う顔だ。

 カルディアさんに肩を叩かれ、ソラナはそっと近づいて僕の手を握った。


「ケイダくん、私も頑張ってみるね。もしちょっとでも戦える力をつければこれからの旅はもっと楽になると思うから」


 ソラナの真剣で真っ直ぐな瞳に僕の胸は撃ち抜かれた。

 まるでマシンガンで乱射された弾が全弾当たってしまったような強力な衝撃だ。

 かわいすぎると思う。


「……分かりました。やってみます」


「ケイダ、ミマツ達に見せつけてやれ。冒険者は舐められたら終わりだが、実力を持っている奴には敬意を払わざるを得ない。お前の力は唯一無二だ」


 どうしてカルディアさんがそこまで評価してくれるのか分からなかったけれど、僕は胸が熱くなるのを感じた。

 さっきはソラナに撃ち抜かれ、今は熱くなりと僕の胸は大忙しだ。


「カルディアの姉御……」


「おい、何が姉御だ! 私みたいなお淑やかな女を呼ぶ言葉じゃないだろうが!」


「お淑やかの意味が変わったのかな⋯⋯?」


 おかげで思っていた言葉が漏れてしまったけれど、ちょっとだけ肩を叩かれるだけで済みました。





「それじゃあ、話がまとまったみたいなんで行きましょうかぁ」


 ミマツが薄っぺらい笑顔を貼り付けながらそう言った。

 相変わらず軽薄そうでもあったけど、これまでとはまるで違う雰囲気を纏っているのが僕にも分かった。


 あいつは集団の一番前にいて、僕は一番後ろにいるけれど、それでもミマツが集中し始めているのが伝わってきた。

 不思議だけれど、いつもうるさい奴が黙って気持ちを研ぎ澄ませているのが分かると、自然と僕の集中力も深まっていった。


 そして、あいつが一番後ろにいる僕とソラナの動きも気にかけているというのがなんとなく分かった。

 癪だけれどミマツが指揮に優れているという話はきっと本当なんだと思う。

 むしろ、それだけ視野が広いのに空気を読めないあたりに狂気を感じる。


 僕は昨日カルディアさんが話していたことを思い出していた。


「ミマツは本当に視野が広い。嫌な奴には違いないが、その場にいる味方と敵の能力を把握して、適切に運用する能力は格別だ。ミマツはいろんな冒険者に嫌われているが、あのパーティが『当意即妙』という名に相応しい動きをすることを否定する奴はいない。そこがまぁ、またムカつくところなんだけどな」


 そんなことを頭に浮かべながら歩いているとユミータさんが声を上げた。


「コマンドホークを見つけました」

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