第77話:炙りの効能

 商人との契約、そしてミマツパーティとの挨拶を終えたあと、僕はカルディアさんに「みんなミマツに脅されて仕方なくパーティを組まされているんじゃないか」と訴え出た。

 しかしそれを聞いたカルディアさんは笑って否定した。


「ミマツの奴はパーティメンバーには当たりが強くないし、冒険者としても指揮官としても本当に実力があるんだよ」


 カルディアさんが言うから本当なんだろうけど僕は不服です。


「それにあいつのせいで評価が低いと言ったけれど、実はそれは一面で、批判はあいつに集中するし、逆に気に入られて指名依頼を定期的にくれる人も多いと聞く」


「そ、そんな……」


 確かにミマツとの比較で他の人達の優しさが際立っているのは間違いないと思う。何かあったらミマツのせいだと思う気持ちはよく分かる。

 僕もそう思っちゃう気がするしね。


「まぁ、ケイダの気持ちも分からんでもないがな。第一印象が悪すぎるとは思うが、私の方はミマツと喧嘩するのが楽しみみたいなところもあるから、少し引いた目で見てもらえると助かる」


 カルディアさんにそう諭されて僕は感情を飲み込むことにした。

 冒険者として活動していればクセのある人は沢山いるだろうし、社会勉強だと思って耐えてみようと思う。

 あれほどの人は居ないだろうけれど。


「それに、ほら見てみろよ」


 言われた方向を見るとシュッケさんとソラナが何やら話しているのが見える。


「火はもうちょっと強くても良いかな。あれは結構身体能力も高いからもう少し出力を上げないと効果が小さいと思うの。髪の毛すら耐性があるからね」


「……このくらいですか?」


「うん。良い感じ。ソラナちゃんはセンスあるよ」


 ソラナが火の魔法を練習していてシュッケさんがそのアドバイスをしているようだ。

 微笑ましい光景のようにも見えるけれど、カルディアさんの顔はニヤニヤしている。


「あれはミマツの炙り方をシュッケが伝授しているんだ。あの調子なら問題ないようだな」


「え、そんな物騒なことを教えているんですか?」


 だとしたら逆になんであんなに朗らかに教えられるんだろう。シュッケさんが怖いです。


「あぁ。まぁケイダとしてもソラナにちょっかいをかけられるよりは防衛策があった方が良いだろ?」


「それはそうですけど……」


「シュッケが言うにはミマツには特有の魔法防御のノウハウがあるらしくてな、普通に火の魔法を使っただけではダメージにならないらしいんだ。ソラナにできるか心配だったがあの様子だと問題ないようだな」


 その部分だけ聞くとミマツってやっぱり実力はあるみたいだ。

 能力高いからこそ、ああいう振る舞いが出来るんだろうなぁ。顔も整っているし……。


 だけど、シュッケさんはミマツに嫌がらせするために攻撃する方法を編み出したのだろうか。

 やっぱりあの人って見た目はおおらかで声もほんわかだけど、かなりヤバイひとだよね。


「あ、ケイダくん。ケイダくんも炙りを体験してみる……?」


「い、いえ、結構です」


 良からぬことを考えていたらシュッケさんから声をかけられてビクッとしてしまった。

 えっ、心を読まれているとかじゃないよね?

 大丈夫だよね?


「はっはっは。ケイダは分かりやすいなぁ」


 カルディアさんは笑いながら肩をバンバン叩いてくる。

 僕ってこの人に分かりやすいって言われるほどなの?





 それから僕たちは『当意即妙』の皆さんと一緒に夕食を共にし、夜を迎えることとなった。


 今日はゆっくり身体を休め、明日の朝にコマンドホークと戦う予定だ。


 ご飯を食べている途中、何度もミマツに絡まれてバカにされたけれど、シュッケさんが炙って撃退してくれた。


 もちろん僕を守るためにやってくれたんだろうけど、ミマツを炙る時にとびきり嬉しそうな顔をしていたからシュッケさんって本質的に攻撃するのが好きな人なんだと思う。


 今のところは気に入られてる感じもあるから大丈夫だけど、敵に回さないように気をつけた方が良さそうだ。


 カルディアさんは奴と軽口を叩き合っていて、喧嘩するのが正しいって言っていたのは本当みたいだと思った。


 ミマツ目線で見ると、僕ってケンカ仲間の子分みたいなもんだろうからまぁ目の敵にされるのも分かるよね。


 ただ、ミマツは僕をバカにした後でこっちの様子をじっと観察しているような気がするからどういう人間なのかを見る奴なりの方法なのかもしれない。


 まぁそうだとしてもそんな方法をためらいなく使ってくる奴とは仲良くなりたくないけどね!


 そしてなんとミマツの奴はシュッケさんの目を盗んでソラナにも失礼なことを言っていた。だけど、カルディアさんに促されたソラナはミマツの手を軽く炙って撤退させていた。


 流石にソラナにまでちょっかいを出すとは思っていなかったのか、見かねたユミータさんとルーシーさんが戻ってきたミマツを囲み、タコ殴りにしていた。


 ざまぁみろと思って笑っていたんだけど、もしかしてこの中で一番情けないのは自分なんじゃないかと気づいてしまい、僕は一人静かにへこんだ。


 その後、寡黙なバラックさんと口数少なめだけど穏やかな見張りの時間を過ごした後、僕は軽く眠り、休息を楽しんだ。


 そして戦いの朝がやってきた。

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