第76話:やっぱり怖い人
コマンドホークという魔物を倒すために僕たち四人はミマツ率いる『当意即妙』と共闘することになった。
僕は納得いっていなかったけれど、他の三人がやる気満々だったのでとりあえず了承することにした。
そんな訳でまずは挨拶をしなければならない。
こういう場合は一応向こうの雇い主の了承を取る必要があるそうなので、僕たちは商人のご夫婦のところに行った。
「かの有名な『桃花』のお二人とケイダさん、そしてソラナさんですね。私はハルト王国とスパーダ王国間の行商をしておりますジョナスと申します。こちらが妻のデリーサです」
ジョナスさんはシュッとした感じの人だった。
胸当ても付けているし、短剣も持っているから冒険者のように見えていたのだ。
だけどよくよく装備を見るとリュックが大きすぎるし、服にもたくさんポッケが付いていて戦闘向きかというとちょっと違うようにも思える。微かな違いだけど。
奥さんのデリーサさんも似たような格好をしていて、登山に行くような見た目というと語弊があるけれど、この世界の物で目一杯準備をするとこうなるのかなという感じだった。
「火急という訳ではないのですが、ハルト王国に早く入りたい用事がありまして、私達としても皆さんに協力していただけたらと思っている次第です」
ジョナスさんは丁寧に頭を下げた。
何を言われるかと身構えていたけれど、かなり腰の低い人のようだ。
いや、もしかしたらカルディアさん達がいるのが大きいのかもしれない。
いまいち等級の価値が分かっていないけれどB級冒険者と仲良くなって悪い訳がないだろう。
「そ、それで……お代のことなんですが……」
思いを巡らせていると非常に言いにくそうにジョナスさんが口を開く。
「お代は結構ですよ。私達もハルト王国に行く予定でしたので」
「ほ、本当ですか?」
シュッケさんが柔らかく伝えるとジョナスさんは頬を緩めた。
「本当です。その代わり私達『桃花』とケイダくん達にそれぞれ貸し一つずつということでいかがでしょうか」
「えっ?」
「貸し一つです。私達が困った時に助けてくださるのであればお代はいりません。……それが嫌であればもちろん正規の料金を請求しても良いですけど、どうしますか?」
顔は笑っているんだけど、シュッケさんから得体の知れない圧を感じる……。
凄まれて怖いのかジョナスさんの額から汗が滲み出している。
「『桃花』のお二方に仕事をお願いするのですから貸しということで問題ありません。ですが、その……」
ジョナスさんはチラッと僕の方を見た。
まぁ、確かにどこの誰とも知らない奴に借りを作るのは結構怖いことだと思う。
何をしろって言われるか分からないし、反故にするのも怖いし。
「私達はどちらでも構いませんが、もしかしたら彼に借りを作って良かったと思うことがあるかもしれませんよ? ですが、無理強いはしません。あとからの変更を受け付けるつもりはありませんので、お金の準備をお願いします」
シュッケさんはそう言い放って笑みを深めた。
横から見ているだけだけどめっちゃ怖い。
僕としてはジョナスさんの言い分がとても正当に聞こえるから、シュッケさんが横暴に見えるんだけど、どうなんだろう。
こっちがお願いする立場なんじゃないかって思っていたんだよね。
だけどカルディアさんも口を挟まないし、ソラナも表情が読めない。
この世界ではこれが普通なのかな?
「わ、分かりました。それでは『桃花』のお二方、そしてケイダさんとソラナさんに貸しを一つずつということで、国境越えるまでの護衛の仕事を依頼いたします」
「承りました。ユミータちゃん、証人になってくれる?」
「はいはーい」
シュッケさんはにっこり笑ってジョナスさんに軽く礼をした。
そして、そうなることが分かっていたかのようにユミータさんがやってきて、シュッケさんが取り出した魔道具に魔力を込めている。
こういう取り交わしの時、普通なら契約書を書くみたいなんだけれど、それができない場合には第三者が証人となるってソラナに聞いたことがある。
魔力を込めるとかは聞いてなかったけど、きっと相応の意味があるのだろう。
◆
晴れて共闘が決まったので、僕たちは『当意即妙』の皆さんと改めて挨拶を交わした。
ミマツ以外はみんな良い人で腰も低かったんだけれど、そこがなんとなく引っかかってしまった。
だって、あのミマツを野放しにしてるのって皆さんですよね?
もちろんそんなこと口に出せる訳もなかったからこらえたけれど、モヤモヤした気持ちは無くならない。
他の人がいくら優しくて「すごい魔法使いって聞きましたよ」とか屈託のない笑顔で褒めてくれたとしても僕は騙されませんからね。
も、もしかしてみんなミマツに弱みでも握られてるんだろうか……。
だったら僕があいつを成敗しますよ?
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