第67話:危ないところだったね
僕達のことを駆け落ちをする一般人だと思っていたカルディアさん達の誤解を解いた後、僕はカルディアさんと見張りをすることになった。
ちなみに僕が冒険者だということは強めに主張しておいたけれど、恋人同士だということはあんまり否定しなかった。
ソラナも似たような様子だったのでちょっと気分が良くなったけど、ある程度はそう思わせておいた方が良いと考えているのかもしれないので、舞い上がらないように気をつけている。
ソラナは天幕にいるけれど、シュッケさんは土の魔法で軽く地面を掘り、毛布をかけて寝てしまった。
カバンから取り出したとき、毛布は小さな布にしか見えなかった。だけどどうやら魔道具らしくて、みるみるうちに大きくなってシュッケさんを覆ってしまった。
この世界にはやっぱりそういう魔道具があるのだと思ったんだけれど、ソラナから話を聞かなかったし、相当珍しいものなのかもしれない。
そんな感じでソラナとシュッケさんが眠ったので僕はカルディアさんと二人になった。
シュッケさんがいなくて大丈夫かなと思っていたんだけれど、二人になってすぐになんの問題もないことが分かった。
「まさかケイダがD級冒険者だったとはな。早く言ってくれればよかったのに」
カルディアさんはそう言って僕と肩を組んで来た。
見た目には胸が無いように思うんだけれど、くっつかれるとちゃんと柔らかいものが当たるんだから女性って不思議だと思う。
カルディアさんは吊り目気味で気が強そうだけれど引っ込み思案なところもあって、僕が冒険者だと分かると途端に距離を詰めてきた。
線は細いけど槍を使うんだから力はあって、女性らしい丸みを帯びた所もちゃんと主張してくる。
ギャップ盛り盛りのカルディアさんを前にして僕は頭がクラクラしてくるのを感じた。
僕が年下だと分かったのもあってか弟みたいに気安く接してくれる。
こんな態度を続けられたら好きになっちゃいそうだ。
い、いやそんなことはないよね。
⋯⋯危ないところだった。
ソラナという心に決めた相手がいなかったらカルディアさんの色香に惑わされてしまうところだった。
「お二人はB級冒険者なんですよね?」
「あぁ、そうだぞ」
正気に戻った僕がそう聞くと、カルディアさんはズボンのポケットからタグを取り出して見せてくれた。
タグは銀のような材質で出来ている板で、前世で言うと名刺くらいのサイズだった。
これが冒険者のランクの証になるようで、僕もさっき見せたのだ。
冒険者登録の時に受付の方が話をしてくれたんだと思うけれど、僕はあんまり覚えていなかった。このタグも荷物の奥に入れてあったので探すのが大変だった。
あれから冒険者ギルドに何度も行ったけれどこれを求められることもなかったし、どういう時に使うんだろう。
依頼を受ける時とかかな? 僕は魔物の素材とかを納品しただけだから出すように言われなかったのかもしれない。よく分からないけれど。
「あたしが槍使いで、シュッケが魔法使いだ。これでもちょっとは名が通っているんだぞ?」
カルディアさんはニカッと笑って地面に置いていた槍を拾い、ひゅんひゅん回し始めた。
僕の目の前スレスレを槍の穂先が通り、思わずのけぞった。
「はっはっは。そう簡単に手元をを狂わせることはないから大丈夫さ」
まぁそうなんだろうけど、怖いもんは怖いので僕はさらに距離を取った。
「ケイダは戦士には見えないし、魔法使いなのか?」
「はい、そうなんです。これでも魔力操作には自信があるので、身体強化はそれなりだと思うんですけれど、やっぱり魔法が得意ですね。その魔法も遠距離じゃないと使えないんですけどねぇ⋯⋯」
言っているうちに自分の能力の使い勝手の悪さにテンションが下がってきてしまった。
近距離でもうちょっと戦えるといいんだけどなぁ。
「遠距離って言うけれどどれぐらい離れたところから攻撃できるんだ? いや、能力を探りたいとかではなくて、これから一緒に活動する訳だからある程度把握しておきたいだけだ」
「ざっと一キロくらいは問題ないですね。身体強化で視力を増強できるので夜でもそのぐらい離れた相手には攻撃できると思っていてください」
「い、一キロだと? そんな魔法は聞いたことないが本当なのか?」
「機会があればお見せしますよ。というかその魔法以外は基本的に役に立ちませんのでご助力お願いします」
僕がD級冒険者ということでカルディアさんは認めてくれているみたいだけれど、通常のD級冒険者と比べると僕の能力は低い。
裏口入学したせいで勉強についていけなくなった学生とまでは言わないけれど、一芸入試みたいなものなので僕の力は歪だ。
「もし本当ならそれだけでお釣りが来るよ。誰もそんなに遠くから攻撃されるだなんて思ってないからね」
カルディアさんは神妙な顔つきでそう言った。
変わらず右手には槍を持っている。
今更だけど、線が細いのによくそれを振り回せますね。
やっぱり身体強化の賜物でしょうか?
そう聞きたかったけれど、話し出すことはできずに夜は更けていった。
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