第49話:二つの想い
ついにソラナの手がかりを見つけた僕はおじさんたちと今後の対策を考えていた。
夕方に門から出て行った集団が怪しいと思っていたけれど、本当にそいつらを追ってしまって良いのか分からなかったのだ。
煮え切らない思考を続けている中、A級冒険者のロルスさんが僕たちのところにやってきた。
僕が恥を捨ててロルスさんに助力を願うと、彼は即座に承諾してくれた。
「助けて⋯⋯くれるのですか?」
「えぇ! もちろんです。あなたほどの人を助けられるというのなら俺も力を貸しましょう」
ロルスさんは朗らかな顔だ。
気持ちよく請け負ってくれてありがたい。
だけど一応事前に条件を確認しておいた方が良いだろう。
「ありがとうございます。ただその⋯⋯頼んでおいて何ですが今は返せるものが何もないのです。後からということで大丈夫でしょうか」
「ケイダさん。友の助けに見返りはありません。お互いが困った時に手を貸し合う。そういうことで良いではありませんか」
僕が手助けの確認をしようとするとロルスさんは手を前に出しながらそんなの要らないと言った。
友達になりたいとは思っていたけれど、思ったより急じゃない?
僕、何かしたっけ?
だがとにかく今は時間が惜しい。
細かいことを考えるのは後回しにして、手を借りることにしよう。
報酬がなくても良いと言ってくれてるのはありがたいからね。
「分かりました。ロルスさんが困った時には僕も友として馳せ参じます。それで何があったかと言いますと——」
僕の答えを聞いて納得した様子のロルスさんにこれまでにあったことを説明した。
◆
「なるほど⋯⋯そういうことでしたか」
僕はおじさんたちも交えてロルスさんに状況を説明した。
途中でロルスさんが情報をまとめながら質問をしてくれたので、いっぱいになっていた僕の頭も少しスッキリしてきた。
「確かにその商人たちが怪しく見えます。ですが犯人と断定するには証拠がなさすぎますので、他の可能性も探る必要がありますね」
話していくうちに僕もそう考えるのが自然だと思うようになっていた。
でも冷静になればなるほど、ソラナは街の外にいるんじゃないかという根拠のない感覚が強くなっていく。
「なので門の内と外の二つの組に分かれて調査をしましょう。ソラナ嬢の失踪は間違いありませんので、警備隊にも正式に出動の要請をするのがよいでしょう」
ロルスさんは遠巻きに僕たちの様子を伺っている二人の警備隊の人を見た。
おじさんが言ってもこの人数しか来てくれなかったのだが、A級冒険者が声を掛ければ話が変わってくるのだろう。
「それで、ケイダさんは門の中と外、どちらにソラナ嬢がいるとお考えなのですか?」
ロルスさんは僕の目をまっすぐに見て聞いてきた。
値踏みするというよりは信頼のこもった目に見える。
前世までの僕だったらさっきまで自分が思っていたことになんとなく自信がなくなって、考えていたこととは反対のことをしてしまっていたと思う。
だけどセミになったからなのか何なのか、僕は自分の感覚を信じてみようという気持ちになった。
僕が間違えたとしてもロルスさんだったら何とかしてくれる。そんな信頼が芽生えていることも間違いなかった。
「僕は外を捜索します。例の集団も今なら遠くまで行っていないかもしれないですし、原因が違かったとしても外にソラナが出ていた方が取り返しがつかない気がしてならないんです」
「分かりました。では俺が内側の捜索の指揮を取ります。こういう事件の時に隠れやすい場所もありますので探してみるのが良いでしょう。外については警備隊も出ると思いますがここまで暗くなってしまっては深い捜索はできないでしょうね」
ロルスさんはそう言って息を吐いた後、朗らかだった空気を一変させた。
まなじりは釣り上がり、ほんの少しだけ口角が上がっている。
「皆さん! 少女の失踪が確定しました。この事件の指揮はA級冒険者のロルス・ローランドとその友ケイダが執り行います! どんな些細な情報でも良いので金髪碧眼の少女の情報があれば教えてください。有力な情報には謝礼を弾みます!」
通りの良い大きな声が辺りに響いた。
ピリピリとするような迫力がありながらもどこか心地よくて、ついこの人に従ってしまいたくなりそうだ。
格好良すぎるんだけど⋯⋯。
対する僕の存在感は希薄でポツンとそこに立っているだけだ。
周囲の人はみんなロルスさんに注目していて僕のことなんか見ちゃいない。
それなのにロルスさんだけは信頼のこもった目で僕を見据えている。『これから何をするんですか?』と僕の行動を楽しみにしているかのようにも見える表情だ。
僕に何が出来るのか分からない。
僕は社会経験もないただのセミで、人に助けを求められたことも、頼ったこともほとんどなかった。
そんな未熟な僕だけれど、今は強い気持ちを二つ持っている。
ソラナを助けたい。
ロルスさんの信頼に応えたい。
そのために出来ることをしてみたいと思った。
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