第48話:助けてという言葉
行方不明になったソラナを探すために僕は街の門までやってきていた。
門番はソラナの姿を見てはいないと言っているけれど、他に門に通った集団の様子について記憶を辿っていた。
「そういえばだけど、夕方に通った商人は馬車も立派だし、ガタイも良かったなぁ⋯⋯」
「その話を詳しく聞かせてください!」
どんな小さなことでも良いから手がかりが欲しいと思っていた僕は門番にずいと迫った。
「確か人数は六人だったけど、みんな旅の商人にしては精悍な顔つきだったんだよ。馬も脚が太くて強そうだったな。商人にそういう奴らがいないわけじゃないけれど珍しかったから記憶に残っているんだ」
話を聞いて確かに怪しいと思った。
身体付きが良ければソラナを簡単に攫えるし、馬車があればそこにソラナがいたかもしれない。
問題なのはそれが僕が焦ってこじつけただけの推測かもしれないということだ。
他にも何か思い出せることはないか門番に聞いたけれど有益な情報を聞き出すことが出来なかった。
それから僕は残り二つの門に行って話を聞いたけれど、そもそも街に出入りしている人が少なく、怪しいのはこの馬車持ちの商人たちだけだった。
僕は自分の考えに自信がなかったため、とりあえずおじさんのところに戻って話を聞いてもらうことにした。
◆
僕はまた全力で走り、おじさんの店のあたりに向かった。
近づくにつれ多くの人が集まっているのが分かる。
「おう、坊主戻ったか」
「おじさん! 何かソラナの手がかりはありましたか?」
僕がそう聞くとおじさんは難しい表情になった。
その顔を見て嫌な予感がした。
「街の裏手の方にこれが見つかったんだ」
おじさんが見せてくれたのは革製のリュックだった。
しかも中には今日購入したものが一部入っているようで、ソラナの物で間違いないだろうということだった。
危機を察したソラナが残してくれたのかもしれない。
次に僕は門番から聞いた怪しい集団の話についておじさんに伝えた。
おじさんをはじめとして周囲に人たちもやっぱりその集団が鍵を握っていると感じたようだった。
だけど、本当にその集団を追うということで良いのだろうか。
推測が間違っていたら取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
僕とおじさん、そして街の人たちがどうしようかと頭を悩ませている時、集団の中に割って入ってくる人がいた。
「なんの騒ぎでしょうか」
そこには僕と出かけた時と変わらない姿のロルスさんがいた。
金属製の胸当てをつけたままだし、剣も持っている。
「ロルスさん!」
「ケイダさん⋯⋯?」
頼れる人が来た。
そう思った僕はすぐに足を踏み出した。
一瞬みっともないとか恥ずかしいとかそういう気持ちが浮かんできたけれど、すぐに全てを捨てた。
「——何かあったのですか?」
近づいてくる僕の顔を見てロルスさんの表情も一層引き締まった。
この人を信用して良いのかは正直分からない。
だけどセミになってから得た野生の直感が『こうしなくちゃならない』って強く言っているのだ。
僕はロルスさんの前に立ち、彼の目をまっすぐに見た。
そして出来るだけ誠意が伝わるようにはっきりとした声で言った。
「ロルスさん! 僕に力を貸してください。あなたの助けを借りたいんです!!」
僕は無意識のうちに頭をしっかり下げていた。
思えばこうして誰かに助けを求めたのは初めての事かもしれない。
前世の僕はずっと辛い状況で生きていたけれど、病院にいたおかげで様々な助けを得られたし、ある意味では本気で助かることを諦めてしまっていた。
でも本当はずっと『誰か僕を助けてくれ!』と心の中では叫んでいた。
だけど何故かその気持ちを表に出すことはせずに僕はあの世界を去ったのだ。
そんな僕だったはずなのに、ロルスさんに頭を下げることにはなんのためらいもなかった。
手を貸して欲しかった。
助けて欲しかった。
未熟な僕だけでは足りないことを誰かに補って欲しかった。
僕は頭を上げ、ロルスさんのことを見つめた。
彼は驚いているようだ。
目を見開き、僕の顔をまじまじと見つめている。
僕は冷静に頭を働かせ始めた。
この人は僕にどんな条件を出してくるだろうか。
僕は何を返せるだろうか。報いることができるだろうか。
そんなことばかり考えていた。
だからロルスさんの言葉を聞いて、今度は僕の方が固まってしまった。
「分かりました。このロルス・ローランド、あなたに助力いたします。⋯⋯友として!」
彼の琥珀色の瞳は熱く燃えているかのように煌めいていた。
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