騒動、そして告白

第47話:頼りになるおじさん

 ロルスさんとの探索を終えた僕は宿に戻り、ソラナの帰りを待っていた。

 しかし彼女は朝出てから宿に戻った様子がないらしい。


 胸騒ぎがした僕は宿を飛び出し、ソラナを探すことにした。

 日が暮れ始めているので、お店も閉まり始めるはずだ。


 最初に宿に来た時やご飯を食べに行った時などにソラナがこの街のお店の話をしてくれたので、彼女が行きそうな場所にはいくつか心当たりがある。

 そもそも買い物にそんなに時間がかかっている時点でおかしいのだけれど、とにかく手がかりを掴まなくてはと僕は必死だった。


 脇目も振らずにソラナがよく行くと話していた雑貨屋に入ると、店主のおじさんが店じまいをしようとしているところだった。

 一瞬だけ人見知りが発動しそうになったけれど、そんなことを気にする感情がとても些細なことに思えて僕はおじさんに話しかけた。


「あの、すいません。金髪の少女を探しているんですが、今日この店に来なかったですか?」


「はい? なんだって? 金髪の少女?」


 僕が捲し立てるように聞いたのでおじさんは混乱してしまった。

 さすがに焦りすぎだと自分に言い聞かせながら僕は言葉を続けた。


「金髪碧眼で歳は僕と同じくらいの子です。ソラナという名前なんですが⋯⋯」


「ソラナちゃん? 彼女だったら今朝この店に買い物をして行ったけれど、どうかしたのかい?」


「僕は彼女とこの街に来て同じ宿に泊まっているのですが、今朝出かけたっきり戻ってこないんです!」


「なんだって!? 俺の店に来た後はヨシばあさんの薬屋に行くって言っていたけれど⋯⋯。すぐ近くに店があるから行ってみてくれ。しっかりした子だし、この辺で迷っているなんてこともないだろう。俺もこの辺りの奴に話を聞いてみるからまた戻ってきてくれ」


「ありがとうございます!」


 おじさんはどうやらソラナのことを知っているようだった。

 そのためか非常に話が早かった。

 彼女が何かにトラブルに巻き込まれたかもしれないと即座に理解してくれた。


 それから僕はおじさんに教えてもらった通りに薬屋さんや近くの保存食屋さんなどに話を聞いた。

 みんな口を揃えて午前中にソラナを見たと言ったけれど、そのあとのことは知らないらしい。


 おじさんのところに戻ってそのことを伝えるとおじさんが新たな情報を教えてくれた。


「おう、坊主。どうやらソラナちゃんは昼前に行った店で『荷物がいっぱいになったから宿に帰る』と言っていたらしいぞ。やっぱりこれはおかしい。誘拐かなんかかもしれん。俺は警備隊に話をしてくるから、坊主は門に行って怪しい奴が通ってないか聞いてきてくれないか?」


「分かりました。本当にありがとうございます」


 僕は深く頭を下げてまた走り出した。

 自分一人では何にもできなかったけれど、街の人が助けてくれるおかげでなんとか調査が進んでいる。


 ソラナの人柄が街の人に伝わっているのが大きいのだろう。

 幼い頃からこの街に何度も足を運んでいるとソラナは言っていたから知り合いも多いのかもしれない。

 だけど、街の人の様子からして彼女の村が滅亡してしまったことはまだ言っていないんじゃないかと思った。


 門に走りながら次第に情けない気持ちが湧き上がってきた。

 昨日彼女の護衛をすると言ったはずなのにすぐにこの事態だ。


 どうすることも出来なかったような気がするけれど、どうしても後悔が出てきてしまう。

 ギルドでおだてられて調子に乗っていなかったか? 

 やっとお金が稼げると周りが見えなくなっていなかったか?

 そんな自問に頭が埋め尽くされる。


「いまはそんなことを考えてる場合じゃない!」


 そう口に出してみるけれど、どんどん焦りが募ってくる。

 ソラナがどんな状態なのかを考えるのが怖くて、自分を責めている方が幾分か楽なのだ。

 なんの意味もないことは分かっているけれど、僕はそうやって自分を紛らわせることしか知らなかった。


 体を魔力で強化しているおかげか僕はかなり速く走ることができるようになっていた。

 なので三つある門の一つに僕はすぐに到着した。

 今朝ロルスさんと僕が出て行ったのと同じ門だ。


「すいません! 聞きたいことがあるんです!」


 僕は叫ぶように詰所にいる門番に声をかけた。

 今は二人の門番がいる。


「金髪碧眼の僕と同じぐらいの歳の少女の行方が分からなくなっているんです。今日のお昼ぐらいから目撃情報がなくなったのですが、見ていませんか? あと何か怪しい人を見たりはしていませんか?」


 門番の二人は突然大声を発する僕を訝しげな目で見ていたが、のっぴきならない状態だということを理解したのかすぐに立ち上がり駆け寄ってきてくれた。


「金髪の少女だって⋯⋯? おい、お前今日は昼からの番だと思うけど見たか?」


 門番の一人がもう片方の人にそう話しかける。


「いや⋯⋯俺の番の時に女性が通ったのは見てないなぁ。今日通ったのはそこの兄ちゃんの組とあとは二、三組だなぁ⋯⋯」


「その二、三組ってどんな人たちか覚えてますか!?」


 門番の男は目を斜め上に向けて記憶を辿り始めた。

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