第45話:朝から良い匂いがした
昨日ソラナと話して、僕はロルスさんと森へ行き、ソラナは旅の準備を進めてくれることになった。
朝、自然に目が覚めた僕が食堂に行くとすでにソラナが待っていた。
ソラナがいるんだったらベッドの上でぼーっとせずに降りてくればよかったと僕は後悔した。
「ケイダさん! おはようございます!」
「ソラナさん、おはようございます」
朝からソラナは元気いっぱいだった。
だけど声色をうまく調整しているのかうるさいとは思わなかった。
「やっぱり早くからロルスさんのところに向かうのでしょうか?」
「はい。ロルスさんの予定もありますし、宿にお邪魔して待っていようと思います。もしかしたらもう出かけている可能性もありますが、宿の人に話をしておくと言っていたのですぐにわかると思います」
「もし会えなかった時はどうされるつもりですか?」
「その場合は少し街をぶらついてから宿に帰ってこようと思います。午後は一緒に出かけますか?」
「はい! そうお願いしようと思っていました。では、私は一度お昼に様子を見に帰ってくるので、もし合流できたら一緒に買い物に行きましょう!」
ロルスさんと会えたら森に、何か用事があるようだったら午後からソラナとデートだ。
どちらに転んだとしても僕にとっては楽しいことしかない。
ソラナと楽しくおしゃべりしながら朝食を食べた後、僕はロルスさんがいるという宿に向かった。
この世界に来てから初めて外で食べる朝食だったけれど、今日出されたのはパン粥だった。
ドロドロというほどではなくて軽いポタージュみたいな感じですごく美味しかった。
病院にいた時も似たような消化のよい食事を食べていた気がするけれど美味しさが全然違うのは一緒に食べる人が違うからなのかなぁ。
いまだったら味気なく見えた病院食も魅力的に映るのだろうか。
樹液から始まった僕の食事もついには宿屋の料理にまでになった。
ソラナの手料理もまた食べられるし、本当に恵まれたものだ。
そんな余計なことを考えているうちにロルスさんが泊まっているという宿に辿り着いた。
この街では中堅どころの価格帯の宿らしいけれど、サービスがよく人気の宿だとソラナから聞いた。
穀潰しの僕がいる関係で、僕たちが泊まるにはちょっと高級な宿なんじゃないかと思っている。
「ごめんくださいー」
僕は宿の扉をおそるおそる開けて中に入った。
結構品が良さそうな店構えだ。
この宿も食堂が併設されており、朝食を出しているので起きている従業員はいるはずだと聞いている。
「いらっしゃい。朝食ですか?」
「いえ、ロルスさんという方がここに泊まっていると聞いたのですが、まだいらっしゃいますか?」
宿に入るとすぐにカウンターがあり、黒髪を短く切りそろえた女性がいた。
用件を伝えるとピンと来たようで、食堂の方を向いた。
「ロルス様ならちょうどいま朝食を食べているよ。席も空いてるし中に入ると良い」
「ありがとうございます」
僕はカウンターの横を通って食堂に入った。
すると入り口のすぐ近くにこれまた上品に朝食を食べるロルスさんがいた。
「ケイダさん!?」
だけどロルスさんは僕を見るなり、食事の手を止めて立ち上がった。
優雅な朝食を邪魔してしまったようで気まずい気持ちになった。
「ロルスさん、おはようございます。お言葉に甘えて一緒に森に行かせていただきたいと思っていたので来てしまいました。朝食の時間にすいません」
「おはようございます。こちらこそまさか来ていただけると思っていなかったので、驚いてしまいました。宿で待ち合わせしているとよくあることなので、朝食のことは気にしないでください」
それからロルスさんは僕を向かいの席に座らせてくれた。
そして食事を平らげながら、今日の予定について話をしてくれる。
アービラの街の近くに森があり、そこで珍しい薬草が取れるかもしれないので、一緒に探しに行かないかという話だった。
ちょうど『女神の楽園』とは反対の方向にある森で、もしかしたら魔物がいるかもしれないけれど、今は災厄の年なのでかなり安全に探索できるようだ。
もちろん僕は了承し、すぐに出発の準備を整えたロルスさんと街を出ることになった。
◆
「もし良ければ教えていただきたいのですが、その服はどうやって魔力で成形しているのでしょうか?」
森に着き、二人で話しながらふらふらしているとロルスさんがそんな風に聞いてきた。
それまでは天気の話や好きな食事の話などの世間話をしていたのでだいぶ二人での会話に慣れてきたところだった。
ロルスさんの顔を見ると思いのほか真剣な表情をしているので、僕の方もちゃんと答えないとと思わずにはいられなかった。
だけどこれは神様から授かった『人化』の能力の一部なので、それを馬鹿正直に言うわけにもいかない。
「これはいつの間にかできるようになっていたというか⋯⋯。やってみたらできちゃったといいますか⋯⋯」
けれど想いに反してそんな答えがあるかというような適当なことを僕は言ってしまった。
ちゃんと答えようと思っていたはずなのに!
なんとか挽回しようと僕は情報を付け足していく。
「いえ、あのですね。僕は幼い頃から魔力を操作する練習を続けていたんで、細かいことをするのが得意なんですよ。ほら、これ分かりますか?」
僕は人差し指の先から魔力を伸ばして、鳥の形にした。
実は暇な時間を使ってずっと練習を続けていたのだ。
ちなみにモデルはあの白ムクドリである。
見た目だけは可愛かったからね。
長年の遊びの成果をやっと人に見せることができた僕は自慢げにロルスさんの顔を見た。
横にいたロルスさんは僕の指先を見つめながら絶句していた。
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