第43話:D級冒険者がどれぐらいすごいのか分からない
冒険者ギルドに登録しようと思ったら、食事処で会ったロルスさんがやってきて僕をD級冒険者に推薦してくれるという。
ロルスさんはA級冒険者であり、僕の力を認めてくれるみたいだけど、この話を受けてしまって良いのか僕は考えている。
話を受ければ今後稼ぎやすくなると思うから良いんだけれど、見ず知らずの僕にロルスさんがなんでそんなことをしてくれるのかが分からなかった。
だって飯屋でちょっと見かけただけの人間だよね、僕って。
そんな風に疑問は尽きなかったんだけれど、受付嬢のリーサさんとロルスさんの二人が僕の答えを待っている状況にだんだん耐えられなくなってきた。
ロルスさんに借りを作ることにはなっちゃうけれど良い人そうだし、別に良いかな?
一応デメリットがないことだけ確認しておこうか。
「この話を受ける利点は分かりそうなんですけれど、欠点についても教えてくれませんか? その、推薦制度というものがあることを知らなかったものでして⋯⋯」
「失礼しました。私もつい先走って説明を飛ばしてしまいましたね。推薦制度について知っている方は多くはありませんので知らないのは当然かと思います」
随分と柔らかい物腰になったリーサさんが頭を下げながら説明を始めてくれた。
ロルスさんは微笑みを浮かべながら一歩引いた様子で話を聞いている。
「利点としてはやはり初めから難度が高い依頼を受けられるということになるでしょうか。よくない点は、推薦があるとはいえ、一定期間はギルドとして様子見の期間になりますので他の方よりは報酬が少なくなる可能性があります」
なるほど。多少はギルド側から見定められる期間があるのか。
それはまぁ仕方がないと思う。
「他にも細かい点でF級から始めた冒険者との差異はありますが、ギルドとしてはそのくらいでしょうか」
ほとんどないに等しいんじゃないかと思った。
というか、どちらかというと不利益があったら推薦者の信用に関わるということなんじゃないかという気がする。
「ただし、推薦人は条件を課すことができます。ロルス様、ケイダ様を推薦するに当たって何か契約を結ぶ意向はあるでしょうか?」
「契約を結ぶつもりはないけど、条件をつけるとするなら俺と敵対しないで欲しいってことくらいかな。対立することがあってもまずは話し合いをしたいから、それを守ってくれれば良い」
「いやいやいや、最初っから敵対するつもりなんてありませんよ。推薦してもらうとか以前に戦うつもりもありませんし⋯⋯」
話を聞いていたらロルスさんが随分物騒なことを言い始めた。
僕ってそんなに喧嘩っぱやく見えるのだろうか。
どちらかというと人畜無害系のはずなんだけれどなぁ。
⋯⋯もしかして僕が人ではないということに薄々気づいていたりする?
「でしたら俺の方からはそれ以上は何もありませんね。ケイダさんが宜しければ推薦しますよ」
「では、お願いします。何かあるときには手を貸しますのでおっしゃってくださいね」
「こちらこそ今後ともよろしくお願いします」
僕が推薦をお願いするとロルスさんは安堵したような顔になった。
普通この制度は僕がお願いする方だと思うけれど、ロルスさんは終始腰が低かった気がする。
まぁ、僕に損はないと思うからありがたいことだったね。
良い人そうだから何かあったら助けるのはやぶさかではないし。
そんな訳で僕はD級冒険者になることが決まった。
◆
「ありがとうございました!」
リーサさんから改めて冒険者としての説明を受けた後、僕はギルドを出た。
説明中、隣にはロルスさんもいて色々と助言をしてくれた。
高位の冒険者でないと知らないような制度についても教えてくれたので頭がパンパンになったけれどかなり有益な時間だったと思う。
どうやらロルスさんは僕がすぐに昇格すると思っているようだったので、実力者にしか分からない才能がやっぱり僕にはあるんじゃないかと感じてしまった。
「ケイダさん、もし機会があればぜひ俺のところを訪ねてください」
「ありがとうございます。同行者の意見も聞いてまだ滞在を続けるようだったら行くと思います」
「絶対ですよ?」
そしてロルスさんからは泊まっている宿の場所も教えてもらった。
一緒に近くの森を探索しようと誘ってくれていて、最初は社交辞令だと思ったんだけど、何度も念押しされるのでマジなのかもしれない。
ロルスさんは僕よりも上級なのに全然圧がなくて、めっちゃ良い人だった。
何より顔が格好良いしね!
ロルスさんと別れて僕はソラナのいる宿に戻ることにした。
想像以上にギルドに長くいたので日が暮れ始めている。
僕は歩いて街の様子を眺めながらさっきお二人から聞いた話を思い出していた。
二人によればいまこの街は少し特殊な状態にあるみたいだ。
というのも今年は『災厄の年』なので、この近辺にいる魔物は移動して周辺の街や村を襲うようになるらしい。
だから冒険者たちは基本的には出払っていて、かなり数が少なくなっていると聞いた。
街の人も慣習的に外にはほとんど出ず、外壁の中で過ごすことが多くなるらしいけれど、まぁそのあたりは僕には関係ないかな。
ただロルスさんが言うには思っていたよりも遠くの国の出身の人を見かけるらしい。
そんなロルスさんもこの国の出身ではなく、『女神の楽園』を調査するために来ているんだって。
お礼にあの森の中の情報を教えてあげようとしたけれど、やっぱりやめた。
だってそんなことを知っていたらやっぱりおかしいだろうからね。
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