第42話:冒険者ギルドで起きたこと

 僕は正式にソラナの依頼を受けることにした。

 依頼内容は「ハルト王国のアステルという街にいる親族を訪ねるまでソラナを護衛する」というものだけれど、僕はソラナとこれからも旅ができるというだけで嬉しかった。


 話を終えたあと、ソラナのちょっとした買い出しに付き合ってから僕たちは宿に戻った。

 まだ明るかったけれどソラナは疲れを見せていたし、休息を取るのが良さそうだった。


 僕たちはこれからこの街で数日過ごした後、乗合馬車でハルト王国に向かうことになっている。

 アステルという街までは最短で十日ほどで行けるらしいけれど、日程がぎゅうぎゅうになってしまうので、適度に休息をはさむと二、三週間になるみたいだ。


 僕たち二人分がアステルまで行くお金はあるみたいなんだけれど、「どんな野草を食べよっかなぁ」とソラナが言っていたので、多分余裕があるわけではないんだと思う。


 そもそも僕は一文無しなので、護衛しているとは言ってもお金を稼げるようになりたかった。

 そんな訳でソラナが宿で休んでいる間、僕は冒険者ギルドに行って冒険者登録をすることに決めた。


 この世界の冒険者は僕の想像とだいたい同じで、国を股にかけて活躍する人も多いみたいなので、時間をかけて昇格していけば生活の糧になりそうだ。


 登録してカードを貰えば身分証にもなるみたいだし、道中で倒した魔物を納品すればお金にもなる。登録する以外の選択はないだろう。


 僕が冒険者登録の意向を表明すると、ソラナはすぐさま懐から銀貨を取り出して僕に渡してくれた。

 これからお金を稼ごうと思っているんだと言ってお金をせびるヒモのようだと思ってしまったけれど、僕はちゃんと登録するので問題ない。


 ちなみにお金の価値だけれど、銀貨は500円から1000円くらいの価値があるんじゃないかと思っている。

 ソラナの口ぶりだとこの国の中だけでも複数種の銀貨があるみたいなんだけど、渡してくれたのがどれなのかは僕には分からない。


 美少女から貰ったお金を大切にしまい、ルンルン気分で僕は一人でこの街の冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに行って登録するのは一大イベントだ。

 オーソドックスなのはいかつい人に絡まれるというものだけど、値踏みされて終わりだったり、内心で見下されたりといろんなことが起きる。


 どんな展開になるかなぁと思って街の中心地にあった冒険者ギルドに入ると、そこには予想外の光景が広がっていた。

 広いスペースがあって、カウンターもたくさんあるのに人がほとんどいないのだ。


「あのぉ⋯⋯すいません⋯⋯」


 受付らしきカウンターにいるかっちりとした装いの女性に話しかけると、その人はキリッとした目を僕の方に向けた。


「いかがなさいましたか?」


 女性の服は露出の少ないものだったけれど、それがかえって胸部の盛り上がりを強調し、存在感を放っている。


「冒険者登録をしたいのですが、可能でしょうか⋯⋯」


 僕は胸が大きい人に気後れしてしまう。

 生物としての格が違うかのように思ってしまって、うまく目を合わせることもできないんだ。

 遠くから見る分には嫌いじゃないんだけど⋯⋯。


「はい。冒険者の登録ですね。お名前をお伺いしても?」

「ケイダといいます⋯⋯」

「ケイダ様ですね。何か実力を証明するようなものやどなたかからの推薦状などはお持ちでしょうか?」

「いいえ、持っていません」

「その場合、最下級のF級からのスタートになりますがよろしいでしょうか」


 女性は仕事ができそうな感じで、どんどん質問をしてくる。

 ちょっと気が強そうだけれど人によってはたまらないんじゃないだろうか。

 多分人気だと思う。


 そんな感じで僕があたふたと質問に答えていると、後ろから人がやってきた。


「リーサちゃん、この人が冒険者登録するのか?」

「ロルス様! いらっしゃっていたのですね」


 顔を見るとその人はソラナとご飯を食べた店にいた主人公っぽい顔の人だった。

 リーサちゃんと呼ばれた受付の女性は突然顔を赤らめてとびきりの笑顔を見せた。

 格好いいからね。仕方がないよね。


「あぁ、つい先ほど帰ってきたばかりだったから情報収集にね⋯⋯」


 そう言ってロルスさんは僕を見てニコッと笑った。

 え、格好いい人って男にもこんな表情するの?

 つい気を許してしまいそうになっちゃうんだけれど⋯⋯。


「それでこの方のことだけれど、見る限りかなりの手練れだよ。もし迷惑じゃなければ俺が推薦するけど⋯⋯どうだろうか?」


「えぇ!? ロルス様の推薦ですか? でしたらD級から登録することができますが⋯⋯あのロルス様が?」


 ロルスさんはキラッキラの笑顔で僕を見ながらそう言った。

 リーサさんは驚いて目線を僕とロルスさんの間で行き来させている。


「僕を⋯⋯推薦ですか?」 


「もし迷惑でなければですけれどね。と、初対面でいきなりこんなことを言って申し訳ない。俺はA級冒険者のロルス・ローランドと言います。お名前を伺っても?」


 ロルスさんは丁寧な様子で自己紹介をしてくれた。

 胸に手を当てて話す姿は様になっている。

 もしかしたら挨拶の時の礼儀なのかもしれないので僕も真似して挨拶をする。


「僕はケイダと言います。さっきご飯屋さんでお会いした方ですよね? なぜ僕を⋯⋯?」


「あぁ、覚えていてくれましたか。あの時から気になっていたんですよ、すごい魔導士が来たって」


 ロルスさんは『自分は分かっていますよ』と言わんばかりの表情で話してくるんだけれど、僕はどうしたら良いのか分からなかった。

 ソラナに僕の魔力密度はすごいって言われたことがあるけれど、それってA級冒険者がすごいって言うほどのレベルなの?


「ロルス様がそこまで評価するほどのお方でしたか⋯⋯。でしたらやはりD級から始めるのが良いかと考えますがいかがでしょうか」


 リーサさんの態度も一変した。

 胸の威圧感は置いておいて、さっきまでは気さくに話してくれていたのに今は姿勢を正してちょっと小さくなっている。


 別に横柄とかでもなかったし、丁寧に接してくれたから良かったんだけどね。

 相手に恐縮されちゃう方が僕としては困る。

 だってそんな経験全くないからさ。


「そうですね⋯⋯」


 僕はどうするか考え始めた。

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