第35話:もしかしてこれが運命?
アービラに向かう道中、僕たちは野営しなければならない。
野営の準備をする中でソラナの手料理を食べた僕はなぜか涙が止まらなくなってしまった。
そしてそんな僕を見ながら何故かソラナも涙を流し始めてしまった。
最初に会った時から思っていたんだけれど、この子って良い子すぎない?
謎のセミ男を信じちゃって良いのかって心配になるくらいの良い子な気がする。
僕はあんまり社交的じゃないし、セミの時間が長かったから人とコミュニケーション取れるか心配だったんだけれど、ソラナとはうまく話をすることができる。
見た目がとにかく好みだということを差し引いても、彼女のことを心から信じられる気がしている。
ソラナを見ていると他人ではない気がして、懐かしい感情が出てくる。
もしかしたら妹とか家族が僕と同じように転生してきたのかなと思ったけれど、そういうものとは何だか違うような気もしている。
もっとずっと昔から繋がっているような⋯⋯。
も、もしかしてこれが運命?
と、こんな風に妄想をしているけれど、いま僕とソラナは無言で食事をしている。
泣いてすっきりしたのは良いんだけれど、何だか気恥ずかしくて話し出せなくなってしまった。
ソラナは真っ赤な顔でもじもじしながらこちらの様子を伺っている。
僕も多分おんなじ顔をして挙動不審になっている。
時折呟くように「お、おいしいな⋯⋯」とか言っているんだけれど、声が虚空に響き渡るばっかりで返事はない。
ちなみに、草のソテーは食べ応えがあって本当に美味しかった。
厚手の葉っぱを丁寧に炒めて塩を振っただけのはずなんだけれど、すごい満足感を感じた。
中華料理の豆苗炒めみたいなのが謎に美味しく感じるのに似た感覚だと思う。きっと。
食事を食べ終わったあと、流石に少し話をしたけれどお互いにぎこちない感じは続いていた。
突然「僕はこれからソラナの隣で寝るんだ」と緊張したんだけれど、この辺りは魔物もいないし、お互いに別の木に登って眠ることになった。
ちょうど良い木がたくさん生えていることも理由だと思う。
せっかく人になったんだけれど、やっぱり僕は木で眠るんだなぁと何だか感心してしまった。
それから人の姿で初めての睡眠をとってみたんだけれど、特に問題もなくしっかりと眠ることができた。
早く目を覚ましてしまったのでその辺りをうろつきたくなったけれど、じっと我慢して魔力操作の訓練をし続けた。
やっぱりあの厳ついリーダーを倒したおかげか能力が向上しているように感じた。
そして、夜が明けた。
「⋯⋯おはようございます」
今日はどんな日になるかなぁ、なんて呑気におひさまを眺めていたら声が聞こえてきた。
声は掠れていて、寝起きであることがよく分かる。
しっかり眠れたかな?
「おはようございます」
そう言いながら僕は木からゆっくり降りた。
ソラナの方を見ると彼女の顔がよく見えた。
目には大きな隈ができており、顔色は良くなかった。
「⋯⋯大丈夫?」
「はい。なんとか⋯⋯。ケイダさんはお元気そうですね?」
そう言われて僕は静かに頷いた。
僕はなんともなかったけれど普通に考えたら木の上で熟睡できる訳ないよね。
ソラナの選んだ木は真ん中で何本もの太い枝に分かれていたので安定感はあっただろうけれど、まぁそれは獣の思考だと思う。
「少し休みますか?」
「いえ、大丈夫です。歩くうちに元気になってきますし、明日には街に着きますから」
疲れの残る顔でソラナは笑った。
ソラナからしたらまた敵が来るかもしれないし、僕に対してもある程度警戒しなくてはならない訳だから、まぁそもそも気が休まることがないよなぁと思う。
敵は一応撃退したつもりだけど、またやってこないとも限らないしね。
そう思ったらなんだかまた警戒した方が良い気がしてきた。
「僕はまた少し周囲を見てきますね。また何かあるかもしれないので」
「ありがとうございます。私は簡素ですが朝食を用意しておきます」
⋯⋯この子を護衛してお金を払ってもらえるのって何かのバグじゃないよね?
そんなくだらないことを考えながら僕は近場で一番大きな木に登り辺りを見回した。
ひとっこひとりいませんでした!
◆
ソラナの愛情(僕の思い込み)が詰まった朝食を食べた後、僕たちはまたアービラに向かって歩き出した。
どうやらソラナは森の中をゆく進路を取っているようで、馬車が通れる道を進むよりも若干遠回りらしい。
街に着くのが遅くなって申し訳ないと言われたけれど、僕としては森にいる方が心が落ち着くし、何だか二人だけの世界に迷い込んだみたいな気持ちになれるから全然大丈夫だった。
途中でネズミやウサギを見つけたので捕まえようとしたけれど、僕たちだけではうまくいかなかった。
狙撃しようと思ったんだけれど、二人で獲物を追いかけるのが楽しすぎて言い出せなくなってしまっていた。
でもソラナも魔法を使っている気配がなかったし、遊びの気持ちでやっていただけかもしれない。
そのおかげなのか彼女の顔は少しずつ明るくなり、肌艶も良くなったように見えた。
僕と会った時には家族のことを考えてなのか悲しい涙を流していたようだったけれど、あれからソラナが泣いているのは見ていない。
それが空元気なのかどうかを知る手段はなかったけれど、僕に見せてくれる笑顔が全くの紛い物だとは思えなかった。
それからまた夕食を一緒に食べ、また木の上で眠りながら僕らはアービラに近づいていった。
少しだけ無言になることはあったけれど、僕たちは四六時中話をしながら歩いていた。
別れの時間が近い。
僕はそう意識せざるを得なかった。
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