第20話:授かった能力
意訳系金髪碧眼美人の女神様に会って僕は能力を得たみたいだった。
神様の話によると僕は[人化]、[硬化]、[狙撃]の三つの能力を得たらしい。
あの時はつい勢いに乗せられてしまったけれど、やっぱり神様の解釈おかしくなかった?
「まだ見ぬ女性のハートを撃ち抜けるような強い男になりたい」を「見えない距離にいる者の心臓を撃ち抜く力が欲しい」と読み解くのって超越者すぎる。
少しだけ会話させてもらったけれど、全然話が通じてなかったんじゃないかという気がしてきた。
よく考えたら僕がおしっこかけたのを洗浄だとみなしていらっしゃったし、やっぱり神の御心は下々のものには理解できないと思った方が良さそうだね。
でも神様が下界の価値観を持っていたらおしっこをかけた僕は滅せられていたと思うし、思いがけずたくさんのものを与えてもらった訳だから感謝したいと思う。
そんな訳で僕はどうやら能力を得たらしい。
まずとにかく気になっていた[人化]から使ってみたい。
使い方が分からなかったのでとりあえず[人化]を使いたいと強く念じると多くの魔力がどこかに吸い取られていった。
ぼふんっ。
そんな音がして煙が立った後、僕は自分が二本の足で立っていることに気がついた。
演出がちょっと古いような気がするけれど、瑣末なことだったので流すことにした。
目線を足下に向けるとズボンを履いているのがわかる。
上半身も麻のような材質でできた服を着ていて、この能力は服付きなのかと妙に感心してしまった。
「人になったのか⋯⋯」
ずっと心の中で呟いていただけの言葉が外に発せられた。
あれ? さっき白い部屋でしゃべった時よりも声が違うような気がする⋯⋯。
そう思って袖を捲ってみると腕はそれなりに太くて白めの肌をしている。
毛も色素が薄いかもしれない。
「まぁ、そりゃそうか。前世の僕に戻る能力じゃなくて、セミが人になる能力なんだから違って当然だよね」
多分だけど僕は別人になっている。
前の自分に愛着はあるけれど体は弱いし、いまの体の方が良さそうだ。
せっかく能力を得たのにベッドで寝てなきゃいけないのは意味がわからないしね。
神様に感謝しよう。
神様の像は僕と同じくらいの背の高さみたいだ。
台座がある分、頭の位置は違うけれどね。
僕は両手を合わせて改めて神様にお礼を言った。
「さて、次はやっぱり[狙撃]だよね!」
先ほどと同じように僕は[狙撃]の能力を使いたいと念じてみた。
すると今度はポンッと小さい音がして大きな銃が出現した。
かなり大きい、というか長い。あと銃身がかなり太めに作られている気がする。
スナイパーライフルに似ていると思うけれど、前世のものとは作りが違いそうだ。
なんでそんなことを知っているかと言うと昔よく銃撃を行うゲームをよくやっていたのだ。
密かにスナイパーに憧れてもいたので、[狙撃]という能力を授かったと聞いて実はちょっとテンションが上がっていた。
今すぐにでも撃ってみたかったけれどあいにくここは狭い地下空間だ。
外に出てから使った方が良いだろう。
消したいと念じると銃はまたポンと鳴って消えた。
同じようにセミに戻りたいと思うとボフンと音がして、僕は元の姿に戻った。
最後に残ったのは[硬化]だ。
再び念じると確かに魔力が使用された感覚があった。
「⋯⋯でも何にも変わらないね」
まぁ硬化したかどうかは分かりづらいんじゃないかと思っていたので仕方がない。
これも外に出てから色々試してみよう。
なんなら敵と戦ってみても良いしね。
そんな感じで神様に頂いた能力をさっと確認した僕はセミの羽を動かしながら祠の出口に戻った。
◆
「色々ありすぎて完全に忘れていたよ⋯⋯」
神様の像があった空間から抜け出て祠を出ようとした僕は、意識を取り戻した白ムクドリがじっと祠の出入り口を見つめていることに気がついた。
あれともう一度戦うのは正直勘弁だ。
神様から能力を得たとはいえ、いきなり実戦投入はちょっと怖いし、硬化で電撃が防げるかも分からない。
どうしようかと逡巡しながら隠れていると白ムクドリが何故か僕の方を凝視しはじめ、ぴょんぴょんとこちらに歩いてくる。
これってバレてるのかな⋯⋯?
僕はうまく隠れられているはずだと自分に言い聞かせて、物音を立てないようにじっとすることにした。
なお、目はバッチリあっています。
『ちゅっぴぃ!』
奴はちょっと嬉しそうな顔だ。
まぁかわいい⋯⋯じゃなくて、なんでバレたんだろうか。
だが考えても仕方がない。こうなってしまったからには戦うしかないだろう。
そう思って魔力を漲らせた時、奴は立ち止まり、翼を広げてパタパタと振り始めた。
『ちゅぴぴぴぴぴぃ』
何を言っているのかは相変わらず分からないけれど、なんだか『戦いの意思はないぴぃ』みたいなことをあざとく言っているように聞こえてきた。
『じじじじじ』
セミ語で、戦うつもりはないんだよな?と聞いてみた。
『ちゅぴぴぴぃ』
鳥がその通りと言った気がした。心で理解した。
策略という考えも浮かんだんだけれど、奴の気持ちが直接頭に流れ込んできたかのように分かったのだ。
ままよとばかりに僕は白ムクドリに近づいていった。
あれだけ憎むような気持ちを抱いていたのに、だんだん旧友に会うかのような嬉しい気持ちが湧いてきた。
そんな僕の様子を見て鳥も安心したのか足早にこちらに近づいてくる。
そしてその小さな体にある羽を大きく広げて僕を包み込んだ。
『ちゅぴ ちゅぴぃ〜』
あぁ⋯⋯何これ。すんごいモフモフ⋯⋯。
あったかくてなんだか泣きそうな気持ちになる。
この世界に来て初めて心が安らげるような場所に来たようなそんな気持ちだ。
僕、どうしちゃったんだろう。
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