第18話:ばっちいね。
僕が死んだと勘違いした白ムクドリに騙し討ちをしかけ、僕は計画通り奴におしっこをかけることに成功した。
鳥が喜ぶ振る舞いがブラフである可能性や、反応速度が異常に高くて避けられる可能性を念の為に考慮に入れていたのが功を奏した。
『びじゅっ びじゅううううう』
おしっこをかけられた白ムクドリは怒り狂っている。
いままでのかわいらしい表情はなくなり、この世界の全てが憎たらしいとばかりに顔をすくめている。
あ、でもやっぱりよく見るとかわいいかも。
そんな感じで僕が様子を伺っていると白ムクドリは翼を大きく広げて体から電気を放った。
『バチッ!』
しかし、大きな音がして電気は拡散した。
奴はしまったという顔をしている。
そう、僕のおしっこがかかったせいで奴の体から電気が放てなくなっているのだ。
僕は奴が呆けた瞬間を見逃さなかった。
この時を待っていたのだ。
「くらえええええ!!!」
頭に魔力を集中させ、奴の頭に全力でぶつかる。
多分また電気が体に流れるだろうけどなんとか耐えてみせる。
自分のおしっこがかかった敵に体当たりするのは正直ちょっと嫌だけれど、緊急事態なので仕方がない。
不快感を抱きながらも僕は白ムクドリの羽毛に吸われたおしっこが弾け飛ぶような勢いで激突する。ばっちいね。
ドン!
大きな音が鳴り、白ムクドリは真っ直ぐ地面に倒れ込んだ。
側頭部に直撃したのでかなりダメージは大きいと思う。
僕はそのまま白ムクドリから離れて様子を見る。
奴は白目を剥いて寝っ転がっているようだ。
「⋯⋯もしかして勝った?」
そんな風に思ったけれど、油断は禁物だ。
自分がやったのと同じ作戦でやられるのは流石に避けたい。
しかし、いくら待っても白ムクドリが意識を取り戻す気配はない。
本当に大丈夫なんだよな?
セミは後ろ向きに飛べないのでこういう時に不便だ。確認しながら移動することが出来ない。
バック飛行を編み出そうと何度か努力したけれど羽がちぎれそうになったので、多分構造的に難しいのだと思う。
僕はちょっと進んだら振り返って奴の様子を確認するという臆病飛行を繰り返し、そして祠に辿り着いた。
ここまできたらもう大丈夫だろう。
確かな勝利感を覚えながら僕は祠に入って行った。
どんなお宝があるのかなぁ〜。
◆
祠は石がドーム状に積み上げられてできている。
中は広々としていて、病院の大部屋くらいの広さがありそうだ。
入った途端に空気が冷たくなったように感じる。
「なんにもなくない?」
実は戦闘中にちらっと見たりはしたんだけれど、暗くてよく見えなかった。
だから入れば分かると思ったんだけれど宝箱も何にもない。
「お気に入りの場所に入られたくなかっただけとかそういうことある?」
おぼろげな記憶だけれどムクドリはナワバリ意識が強いと図鑑で見たことがあったような気がする。
それだけであんなに苛烈な攻撃仕掛けてくるかと思うけれど、そういう生き物は命をかけて侵入者を撃退しようとする。
徒労感を持った僕は地面に腰を下ろすことにした。
セミだから正確には四つん這いだけどね。
「ふぅ〜」
心の中で息を吐きながらゆっくり着陸しようとした時に異変を感じた。
僕の目には確かに地面が見えるのだけれど、そこに降りようとしたらすり抜けたのだ。
先に空間がありそうなので、地面の像は幻覚なのかもしれない。
僕はゆっくり移動しながらホバリング気味に飛行し、ゆっくりと降りていくことにした。
バック飛行はできなかったけれどこういう飛行技術は少しずつ習得している。
多分他のセミはできないと思う。
「痛っ」
そのまま降りていくとすぐに何か硬いものにぶつかった。
大して痛くはないんだけれど、驚いた拍子に声が出ちゃうことってあるよね。
そんなことを考えていると突然下の方からぼやっとした光の粒が湧いてきた。
実体はなさそうだけれど一個の光の粒はホタルみたいな優しい光を持っている。
光によって僕がぶつかった物体の姿があらわになる。
それは大きな女性の像だった。
女性の顔は前世でいう欧米の人に見える。
とても優しそうな顔をしているけど、よく見ると目がほんの少しだけ鋭い。
可愛い系ときれい系の要素を併せ持った美人のようだ。
淡い光なのでよく見えないけれど所々欠けている気がするのでかなり古いものなのではないかと思う。
「これが守護者のいる祠のお宝なのか⋯⋯?」
空間を飛び回って探してみたけれど他には何にもなかった。
あれだけの死闘を繰り広げておいて、成果がこれか⋯⋯。
そのことを認識した途端体中が痛くなってきた。
そういえば僕は白ムクドリの電撃攻撃を受けて、全身が痺れるほどのダメージを受けたんだった。
興奮でマヒしていたけれど、これって結構な重傷なのでは?
すぐ死にそうとかじゃないんだけど、かなりの疲労感がある。
僕は女性像の胸の辺りに止まって休憩することにした。
「はぁ、癒される」
決して変な意味ではなく、飛ぶのをやめて落ち着くということです。
だけど、ちょっと休むとなんだかモヤモヤとした気持ちが発生するのを感じた。
都合よく宝箱が置いてあるとは思っていなかったけれど、もうすこし面白いものが見られるのではないかと期待していたのだ。
それなのにフタを開けてみれば女性の像が置いてあるだけ。
拍子抜けもいいところだ。
腹いせに僕は全力で鳴き声を上げることにした。
外には音が届かないと思うので魔力を込めることにする。
歌でも歌わないとやっていられない。
『じじじじ〜 きゅっきゅっきゅん』
鳴いてみると音が反響して結構いい感じだった。
お風呂で歌うといい感じにエコーが効いて気分が良くなるのに近いと思う。
残念ながら病院のお風呂だとうまくいかないんだけどね。
『じじじじ〜 きゅっきゅっきゅん』
だんだん調子が良くなってきた。
気が大きくなった僕は何を思ったのか、この像におしっこをかけることにした。
「じょ〜」
その瞬間、像からまばゆい光が発生し、僕は気を失った。
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