第17話:夏の終わりの風物詩
電気タイプの白ムクドリは追尾弾で僕を追い込み、閃光のような速さでこちらに向かってくる。
どちらも直撃したらただでは済まなそうな威力を持っている。
ほんの少しの間迷ってしまったけれど即座に答えが出た。
本心を言えばどっちも避けてしまいたい。
だけど、あの鳥はなんだか自信満々に見えるし、避け損なった時のリスクが高い。
それだけで勝負が決してしまうかもしれない。
だとしたら取るべき選択肢は一つだ。
僕は追尾弾の方を無視して、凄まじい速さで向かってくる白ムクドリ向かって当たりに行った。
「真っ向勝負だ!!!」
避けられないかもしれないんだったら、ぶつかってしまえばよい。
単純な解決策だ。
僕は丹田からさらに魔力を引き出し、頭に集中させた。
幼虫時代から長きにわたって磨いてきたこの技で敵を迎え撃つ。
体格差では圧倒的に不利だけれど、僕は負ける気はしなかった。
僕の動きが見えているだろうに奴が迫ってくる速度が衰える様子はない。
「相手にとって不足はなし! かかってこい!」
二人の距離がどんどん近づいていき、ついにはゼロになる。
バーン!!!!
空中で僕と奴の頭が激突し、衝撃波が発生する。
破裂するような力を頭に感じるけれど、僕はさらに頭を押し込めた。
『ぴちゅい〜』
頭突き勝負に勝ったのは僕だった。
奴は衝撃波に押されたのか吹き飛ばされ、情けない声を上げながら墜落してゆく。
僕はその様をよく見ていた。
かなりのダメージを与えたという手応えがある。
奴は無事では済まないだろう。
だが、これで終わりにするわけにはいかない。
僕は追い討ちをかけようと再び体勢を立て直そうとした。
しかしその時、背後からやってきた光り輝く玉が僕に直撃した。
「あばばばばばば」
電撃が体に走り、力が抜けていく。
鳥と真っ向から勝負するために追尾弾を無視したことを完全に忘れていた⋯⋯。
羽を動かそうともがくけれど体の自由が利かない。
突然浮力を失った体は真っ直ぐ地面に落ちていく。
ひゅー、すとん。
叫び声を出す間もなく背中から落ちていった。
セミの体が軽いおかげか落下のダメージはあまりなかった。
しかし、依然として体が痺れており、動けそうにない。
このままではまずい⋯⋯。
そう思っているとひたひたと歩く音が聞こえてくる。
『ちゅぴぃ⋯⋯』
白ムクドリがため息をつくように声を上げている。
僕は腹ばいになっているため奴の姿を見ることはできないけれど、おそらく小さくないダメージを負っているのだろう。
どんどん足音が近づいてくる。
このまま僕にとどめを刺すつもりかもしれない。
抵抗したいけれど体を動かせるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。
奴は僕のすぐ近くで足を止めた。
終わりの時が近づいているのかもしれない。
息を止める心持ちで死の瞬間を待っていると、僕の脚にびりっとした痛みが走った。
「いってー!!!」
攻撃されたと思って僕は心の中で叫んだ。でも多分脚をちょっと突かれただけだ。
脚が痺れているので、ちょっと触られただけで衝撃が走った。
正座とかをしすぎた時に感じるあの痛みだ。
結構痛いのに抵抗できないからなんとも言えない気持ちになる。
しかし、とどめを刺すにしてはかなり生ぬるい攻撃ではないだろうか。
嫌がらせ程度にしかならないけれど⋯⋯。
そんな風に思っていると、白ムクドリの方から『ばさっ』という音がした。
羽を大きく広げたのではないだろうか。
『ぴちゅっ、ぴちゅ。ぴちゅー!!!!』
そして甲高く大きな声を出した。
すごく強い喜びの気持ちがこもっているように感じた。
『ぴっちゅ ぴっちゅ』
奴は羽をバサバサと動かしながら僕の周りをリズムよく歩きまわっている。
何回も回っているので、喜びを噛み締めているかもしれない。
「もしかしなくても僕が死んでいると思っている?」
感じる気配からは白ムクドリがそんな風に思っているような気がしてならない。
さっき脚を突っついてきたのも僕が死んでいることを確認していたのかもしれない。
僕は脚が痺れていたから反応できなかったわけだけれど、奴はその様子を見て、勘違いしてしまった可能性が高い。
もしそうだとしたらまだ勝ち目はある。
相手の油断をうまく着けばここから逆転できるかもしれない。
何か良い手はないだろうか⋯⋯。
頭を働かせていると前世で元気だった頃の記憶が突然蘇ってきた。
◆
夏の日のことだった。
小学生だった僕は日が照りつける中、道を歩いていた。
この頃はまだ元気だったけれど、あまりの高温に少しだけバテていたような気がする。
重い足を動かして進んでいくと、道端に何かが落ちていた。
近づいてよく見るとそれはセミの亡骸だった。
「夏も終わっちゃうんだ⋯⋯」
確かそんなことを言ったんじゃないかと思う。
セミの命と共に夏が終わりに近づいていることをその頃の僕もしっかり認識していた。
楽しかった夏休みが終わり、また新しい日々が始まっていく。
そんな期待と切なさを象徴するものが道にあったのだ。
僕は自然によく見ようと近づいた。
すると突然爆発したかのようにセミが動き出した。
『ジジジジッ!』
「うわぁ!!!!!」
僕はたまげて尻もちをついた。
あまりの驚きにその前まで感じてた切なさはどこかで飛んでいってしまった。
◆
そうだ⋯⋯!
この方法を使えば良い。
僕は仰向けになりながら勝利を確信した。
セミの伝統技能を駆使して、白ムクドリに反撃すれば良い。
全てを動員して戦えば負けるわけがない。
僕は奴の動きを伺いながら残っている魔力を羽に集めた。
奴が時間をくれたおかげで痺れはもう取れていそうだ。
足音から敵の位置は把握している。
意表をついた攻撃でもう二度と高笑いできなくしてやる!
僕は全力で羽を動かした。
『じじっ』
体から音が鳴り、爆発的な勢いで白ムクドリに近づいていく。
一瞬、奴の顔が視界に入った。
せいぜい呆けた顔をしているんじゃないかと思ったけれど、奴は僕の動きを見て、ニヤリと笑った。
そして素早く体を動かして僕の攻撃を躱そうとする。
「なんだって!? ⋯⋯とでも言うと思ったか? お前の動きなんて想定内なんだよ!!!!」
僕はお尻を奴の方に向けていきみ、びゅっとおしっこを放った。
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