第16話:空中戦

 忌まわしい白ムクドリとの再戦を誓っていた僕は必死に修行した。

 魔法は使えるようにならなかったけれど、体の能力強化に磨きをかけ、ついに戦うことを決意した。


 祠にいた白ムクドリが隙を見せた瞬間を見計らって僕は全力で突撃した。


「くらえ!!!」


 ムクドリは猛烈なスピードで近づく僕にやっと気がつき、驚きで目を見開いた。

 そんな姿もちょっぴりかわいかったけれど、僕は心を鬼にした。


『うぇっ』


 僕は白ムクドリに体当たりした。

 奴は喉に何かが詰まっていたようで、僕の攻撃をくらうと同時にくぐもった声を上げて吹き飛んでいった。


 奇襲は大成功だ。

 奴は祠の上から落ちて、地面に横たわっている。

 見るからにダメージを受けている様子に僕は心の中で思わずガッツポーズした。


 こうして見てみると奴の体はかなり大きかった。

 ムクドリとはいえ、セミ視点で見ると体格差はかなりありそうだ。


 地面でじたばたしている白ムクドリを見物していると、奴の頭頂部に星形の模様があることに気がついた。

 似たようなものをどこかで見たことがあるような気がするけれど、どこだっけ?


 僕はどうでも良いことに悩んでいると、奴は口からペッと種のようなものを吐き出した。

 ずっとあれを外に出したかったのかもしれない。

 そしてすぐに立ち上がり、僕の方を睨みつけ始めた。


『びぢゅ びぢゅ⋯⋯』


 何か言っているけれど、しわがれていて聞き取りづらい。

 さっきの種が喉にある時に攻撃されて痛めてしまったのかもしれない。 

 まぁちゃんと聞こえても意味はわからないんだけどね。


 しかしそれでも僕に抗議の意味を込めていることくらいは分かる。

 さしずめ世々堂々と戦えとかそういうことなんだろうけれど、聞く耳を持つ気はなかった。


 僕はすぐさま奴の方に向かって動き出し、二撃目の準備を始める。

 奴は奴で体勢を整え直し、周囲にばちばちと音のなる電気を発生させ始めている。


 おそらくあの程度の電気に耐えられない限り僕に勝利はない。

 ずっとそんな風に考えていた。

 あの鳥が口から吐き出す電気攻撃は強力だったけれど、周囲に発生させているものはそれほどの威力はなさそうだ。


 そうなると必然的に周囲の電気は食らっても良いがそれ以外の攻撃は避けるという戦略を立てることになる。

 だけど頭では分かっていても、目の前でバチバチやられると非常に怖い。


 思えばこの世界に来てからさまざまな敵と戦ってきたけれど、魔法の攻撃を受けるのはこれが初めてだ。

 打撃だったら痛みはある程度予想できるけれど、電気の攻撃となるとどんな感じがするのか全くわからない。


 えっ、魔法を受けるのってこんなに怖かったんだ。

 バリアとか気の利いたものを出すことができたら良かったんだけれど、あいにくそんな便利な技を使えるようにはならなかった。


「信じられるのはこの体のみか⋯⋯」


 思いのほか脳筋みたいな言葉が口をついて出てきた。

 だけど何故だか非常によく心に馴染む。


 僕は異常にバチバチさせて威嚇してくる白ムクドリのところに突っ込むことにした。

 奴の攻撃を喰らうことよりもこのままへこたれて逃げてしまう方が何十倍も怖い。


 先ほどと同じように僕は全力で飛び出した。

 するとそんな僕の行動を先読みしたのか奴の方も羽を広げ、空に舞い上がった。


 目標が動いてしまったので僕は速さを維持したまま旋回し、再度敵に向かって突撃する。

 想像以上に僕の切り返しが早かったのか奴の回避が遅れた。


 バチバチッ!


 だけど、すんでのところで奴は直撃を避けた。

 代わりに僕は奴の周りに発生した電気の攻撃を受けた。


 うん。

 痛いけれど、魔力ガードのおかげなのか冬に思いがけずドアノブを握った時の静電気とそう変わらない気がする。

 いや、体がちょっと焦げた気がするから流石にそれよりは威力が上か。

 でも耐えられないわけじゃない。


 恐るるに足らず。

 そう思い込むことにした僕は血気盛んに白ムクドリに攻撃を仕掛ける。

 奴の方も羽を巧みに動かし、僕の攻撃を避けていく。

 その度に僕は電気の攻撃を受けるのだけれど、全く響かない。


 あれ、もしかして僕って痛みに強い?

 よく考えると病院にいる時はどこかしらがずっと痛かったし、内臓がうごめく不快な感覚に比べたら外傷は耐えやすいのかもしれない。


 何度電撃を受けても怯まない僕を見て白ムクドリはまなじりを吊り上げた。

 そして空中で翼を大きく広げ、羽ばたき始めた。


 何か来る。

 そう思った僕は奴から離れることにした。

 距離さえあれば知らない攻撃でも対処しやすくなる。


 奴は体の周りに出していた電気を集めて球を作り、僕の方に放ってきた。

 密度が高くなっているので威力は増していそうだが、速度はそんなに高くない。

 避けられないはずないだろと思いながら軽く避けた。


 その瞬間、電気球が僕の方に向かって進路を変えた。


「えっ」


 反射的に羽を動かし、僕はなんとか球を避けた。

 しかし、球は僕の動きに合わせてまた軌道を変えてくる。

 これは追尾弾だ。


『ちゅぴちゅぴぃ!』


 追尾を振り払おうとしていると白ムクドリは楽しそうな声を上げて僕の方に突撃してきた。

 今度は奴の方から仕掛けようというのだろう。


 僕は電気球と鳥に挟まれ、身動きが取りづらくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る