第14話:スライム師匠

 森にあった祠に入ろうとした僕は電気タイプの白ムクドリに攻撃された。

 幸い怪我をすることはなかったけれど、相手が格上だと認識したので、戦略的に撤退し、自分の力を磨いてから再戦しようと決めた。


 だけど残された時間があとどれぐらいあるのかは分からない。

 もしかしたらあと何日かかもしれないけれど、感覚的にはまだ時間があるという気がしている。

 うまく言葉にできないけれど生命エネルギーのようなものが体の奥底から溢れ上がっている気がするのだ。

 病気の時にはこれが全くなかったわけだから、信じても良い感覚なのではないかと思っている。


 僕はできる限りの時間を使って自分を鍛えることにした。

 そして限界まで強くなって、最後にあの鳥を下そうと思う。


 正直あの鳥は強いし、あの祠にあるものが良いものだとは思わない。

 でもこの二回目の命は全てを燃やし尽くして死んでいきたいと思ったのだ。




 あの鳥に対抗するためにまず僕が足りていないのは実戦経験だと思った。

 地中では虫やミミズと戦ってはいたけれど、成虫になってからはほとんど敵に会っていない。


 たまに動物を見ることはあるんだけれど、大量発生しているセミたちが取りついて血管に吻を刺し、血を吸い尽くしてしまうのだ。


 最初に見た時は本当に驚いた。

 樹液が主食だと思っていたのに、奴らは動物の血も好むようなのだ。

 ネズミやウサギを吸われているのも見たし、やたら大きい豚も身体中にセミが群がって一瞬でミイラみたいになっていた。


 僕はと言うと、彼らと同じ種類なのに血を飲みたいと思ったことはない。

 何でかは分からないけれどドラキュラみたいな嗜好は持ちたくなかったので良かったと思っている。

 話は逸れたけれど、そんな感じで動物と戦うことはできなさそうだった。


 ちなみにこれまでは動物とか虫とか言ってきたけれど、多分全員魔力を持っている。

 それが何となく感覚的にわかるんだけれど、魔力を持っているってことはみんな魔物なんじゃないかと思っている。

 もしかしたらこの世界の獣は全員魔力を持っていて、魔法とか使ってくるのかもしれないけれど、ひとまず僕の中では魔力を持っている奴は魔物なんだと見なすことにしている。


 そういう意味では僕自身も魔物だ。

 僕が転生したのはただのセミではなく、魔物のセミだったのだ。


 なぜそんな風に確信を抱くようになったのかというと、虫でも獣でも鳥でもない敵を見つけてしまったからだ。

 それはスライム。ファンタジー定番の魔物だ。


 僕が見たのは丸くてかわいい感じのじゃなくて、ただ粘液が集まっただけのようなタイプだった。

 スライムと言えば序盤のイメージが強いけれど、ものによっては対処が難しくて中盤以降に出てくるパターンもある。

 この森にいるのがどっちなのかは分からないけれど、まぁ多分前者だと思う。

 だって、僕でも倒せるからね。


 でも、そんなスライムのおかげで僕は急激に実戦経験を積むことができるようになった。





 スライムが宙に浮かぶ僕に向かって、体をちぎり飛ばす。

 三日月のような形で飛んでくる攻撃は先が刃のようになっており、直撃したらただでは済まないだろう。


 僕は瞬間的に羽に魔力を集中させてその攻撃を避けた。

 だがスライムは僕が移動した方向に触手を伸ばし、僕を滅多打ちにしようとしてくる。

 うまく避けたいところだが、甘い動きをすると今度は体内に取り込まれ、ぴりぴりする攻撃を受けることになってしまう。

 どちらも耐えられなくはないのだが、触手で打たれるほうが幾分かは楽だ。

 スライムの体は僕の何倍も大きいけれど力はそんなに強くはない。


 そこで僕はあえて真正面から触手にぶつかっていく。

 当たるとわかっているので覚悟もできているし、魔力でのガードも効いている。


 そんな僕の対応を見てスライムは体から丸い球をたくさん放つ。

 一発一発は大したダメージではないのだが、何度もくらってしまうとバランスを崩し、飛び続けることができなくなってしまう。

 そうなるといくら僕でも分が悪い。

 

「仕方がない」


 これ以上戦いを続けると形勢が逆転してしまうかもしれない。

 僕は体の外に薄く魔力を纏い、スライムに突撃した。


 そしてちゅぽんと体内に侵入する。

 ちょっとぴりぴりするけれど、自分から入る分には意外と耐えられる。

 あっちに捕らわれた時はあまり動けないんだけれど勢いよく入れば抵抗なく泳ぐことができる。


 僕は目的の場所にまっすぐ向かう。

 スライムの体内には僕の体の半分くらいの大きさの核がある。

 それを魔力で強化した頭突きで破壊する。


『バキッ』


 手応えあり!

 核を破壊した瞬間、でろでろしていたスライムの体はトロンとし、次第に完全な液体になってしまった。


 スライムの撃破に伴って丹田から大量の魔力が溢れ出てくる。


「また強くなってしまった⋯⋯」


 誰にも聞こえないのを良いことに、最近ではこういうカッコ良い言葉を吐くことのにハマっている。


 なんか自分が強くなった気がしてすんごい気分が良くなるんだよね。




 僕はこうして森でスライムを見つけては挑んでいた。


 スライムはその柔軟な体を生かして変幻自在の攻撃を放ってくる。

 しかも個体によって微妙に個性が違い、使ってくる技が変わるのだ。

 予想外の攻撃を受けることも少なくなく、足りていない僕の経験値を埋めるのに大いに貢献してくれていた。


 ちなみに大抵の攻撃は受けても致命傷にはならないので本当に練習台として重宝している。

 最近では僕を鍛え導いてくれる存在として、敬意を込めて『師匠』と呼んでいるくらいだ。





 主にスライムと戦うことで順調に戦闘経験を積んでいるわけだが、もうひとつ僕が力を入れていることがある。


 それは魔法だ。

 あの白ムクドリと戦った時に、僕はこの世界にはやっぱり魔法があるんだと知った。

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