第2話

そして四日目には、まだみんながおばあちゃんを探して走りまわっていると言うのに、食事やトイレなどの必要なとき以外は、部屋にこもるようになってしまった。

「おばあちゃんがいなくなって、ショックをうけたんだろう」

お父さんもお母さんもそう言い、そっとしておくことにしたようだ。


六日目、この雪の中で何日も生きられる人はいないだろう、と言った人がいた。

それはみんなが思っていたことだが、誰も口に出さなかったことだ。

しかしそれをきっかけに、捜索活動が鈍ったのは確かだ。

お父さんも仕事をするようになったし、お母さんも日常に戻りつつある。

それこそ家族以外の人は、完全におばあちゃんがいなくなる前の生活に戻った。

警察もあきらめのムードだ。

十日を過ぎたころには、もう誰もおばあちゃんを探さなくなっていた。

そんな中、おじいちゃんだけが相も変わらず部屋に引きこもっていた。

しっかりと入り口に鍵をかけて。

それでもおじいちゃんになにか言う人はいなかった。

好きなようにさせてあげなさい、と言うのがお父さんの意見で、お母さんも同様のようだ。

そしてそれは僕も同じだった。

結婚して五十年以上たつと言うのに、いまだに恋人のように仲のいい夫婦。

その片割れがいなくなったのだ。

しかも生きている望みは極めて薄い。

残された者が平常心でいられるわけがない。


そんな中、おばあちゃんがいなくなって二週間が過ぎた頃のことだ。

その日僕は、おじいちゃんの部屋の前を通ろうとした。

そして気づいた。

部屋に入り口の引き戸が少し開いていることに。

僕は思わずその隙間から部屋を覗き込んだ。

そこにおじいちゃんはいた。

その時おじいちゃんは、胴体のない首だけになったおばあちゃんを両手で持ち、そのおばあちゃんに口づけをしていたのだ。



       終

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鍵のかけられた部屋 ツヨシ @kunkunkonkon

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