第30話 ノヴァレインの希望

 私は酷く落ち込んでいた。

 生まれて初めて激しい憎しみをぶつけられたためだ。


 これまでも命を狙われることはあったが、それは憎しみというよりは相手の私利私欲によるものだった。

 だが、町長の子供は私を殺すと言った。

 善悪が分からない子供なので、親がやった悪事を理解していないのだろうが、それでも彼の目からみた私は大好きな両親を殺した敵なのだろう。


「陛下、やはり町長は町民に圧力をかけていました。町長の悪口を言う者は容赦なく捕らえられ、厳しい処罰が行われていたとのことです」


 ゾルトは公開処刑の後も町長の悪事を調べていた。

 もしかすると、私の罪悪感を少しでも拭おうとしてくれていたのかもしれない。


「だから、町長のことを訊ねても無言だったのね」


「そうです。そのような事情ですので、町民は陛下を称賛しています。町長の子供が言ったことはあまり気になさらないように」


「そうだとしても、私は間違ったのです。ゾルトの言う通り、法を感情で運用してしまった罰なのでしょう。町長の子供はどのような状況ですか?」


「全ての親戚から引き取りを拒否されています。町長は相当恨まれていたのでやむを得ないかと」


「それなら、スカーレットが育った孤児院に受け入れてもらいましょう。私は今回の反省をこめて、孤児院に寄付をするつもりです」


「それは良いことです。いずれ、陛下への憎しみも無くなりましょう」


 そうなる日が来ればいいなと思う。

 憎しみを抱えたまま生きるのは辛いことだから。


「この町を復興するにあたり、新しい町長を決めたいと思うのだけどゾルトはどう思う?」


「任命権は陛下にありますから、問題はありません。ただ、町長一派がまだ残っておりますので人選が難しいかもしれません」


 それでもやらなければならない。

 私はこの町に笑顔を取り戻したいのだ。


 私は親衛隊に町民と役人に匿名アンケートを実施するように指示をした。

 内容は、以下とした。

 ・この町をどう変えていくべきか

 ・町長に相応しい人物とその理由

 ・町長に相応しくない人物とその理由


 ――


「陛下、アンケートを回収しましたが、興味深い結果が出ています」


「興味深い結果?」


「役人と町民の結果がまるで正反対なのです。これは、役人のほとんどが元町長派ということになりそうです」


「思ったよりも深刻な事態ね……」


 元町長はもういないのだが、同じ考えをもった役人が新町長となるのであれば悲劇は繰り返されてしまうだろう。

 それだけはなんとしても防がなければならない。


「ですが、光明もあります。町民に人気があるが、役人に人気のない者が数名おります。ひょっとすると、反元町長派なのかもしれません」


「では、その者達を中心に人事を一新するという手もありそうね。まずは彼らを面接してみましょう」


 面接をしてみると、やはり彼らは反元町長派であった。

 これまで元町長派の役人が不正をしているのを見る度に激しく反対していたようで、元町長派からは相当嫌がらせを受けてきたとのこと。

 それでも町民のために退職することなく、戦い続けたのだそうだ。

 しかも、元町長派の不正記録を付けており、問題のある人物が分かるようになっていた。


「ゾルト、こんな腐敗した町にも志のある者がいるだなんて、世の中捨てたものじゃないわね」


「そうですね。特にジュリアンという若者、実務能力も高そうです。彼に任せてみるのはどうでしょう」


「私もジュリアンが良いと思いました。不正リストにある上級役人をすべて解雇し、ジュリアンを中心とした反元町長派に体制を一新しましょう」


 翌日、私たちは庁舎に向かい、新人事を発表した。

 一部の役人からは反対意見が殺到したが、ゾルトが睨みつけると大人しくなった。


 だが、私たちがノヴァレインのためにできることはこのくらいだ。

 後は彼らの手腕に任せるしかない。

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