第27話 スカーレットの本音
私たちはカイリシャ討伐を終え、王都に帰還した。
騎士団の活躍は既に住民に知れ渡っており、その姿を一目見ようと門は大勢の民衆で埋め尽くされていた。
大歓声に迎えられながら、私たちは門をくぐった。
「陛下、これだけの民が祝福してくれています。これも陛下の善政によるものです」
私の横にいたゾルトが喜びを隠しきれないといった様子で私にそう言った。
思えば、即位前に帰還した際には出迎える者など誰一人おらず、瓦礫の中をただ黙って通るだけだった。
僅かな間に民の希望を取り戻せたことはこの上ない喜びだ。
『殿下のお名前、グロリアとは栄光を意味します。殿下はこの国に栄光をもたらす存在なのです。それを忘れてはなりません』
ふと、セリアナの言葉を思い出した。
セリアナの鉢金に触れ、『いつも守ってくれてありがとう』と呟いた。
(セリアナ、見ているか。お前に言われたとおり、私はこの魔界に栄光をもたらそう)
私は改めて決意を固めた。
すると、不思議と力が湧いてきて、目の前が明るくなったような気分になった。
民衆に手を振りながら、私たちは意気揚々と王宮への道を歩んだ。
王宮の前ではスカーレットが出迎えていた。
いつも無表情な彼女だったが、今日は珍しく笑顔を見せてくれた。
「陛下、お疲れ様でした。お風呂の準備をさせていますので、まずはゆっくりとお休みください」
「ありがとう。リナリスには邪魔しないように言っておいてね」
「それは一番重要なことですね。では、後で部屋にお伺いします」
私は部屋に帰り、お風呂に浸かった。
戦場は体が砂だらけになるから嫌だ。
命を賭けて戦っている兵士の前では絶対に言えないけどね。
風呂上がりに夕食を食べていたところにスカーレットがやってきた。
「陛下、遅くなりました。あ、お食事中でしたか、出直しましょうか?」
「スカーレット、夕食がまだなら一緒に食べましょう」
「そうですね。では、少々お待ち下さい」
スカーレットは一旦部屋を出ると、夕食を持ってきた。
私の向かいに座ると、ゆっくり食べ始めた。
それにしても量が少ないような……。
「スカーレットはいつもそんなに少ないの? それだけでお腹が満たされるの?」
「まだ食糧事情も解決できていませんからね。これだけでも大丈夫ですよ」
そう言って微笑んだ。
スカーレット1人が多少食べたところで何も変わらないと思うのだが、スカーレットに言わせるとそういうものではないらしい。
宰相として、政治のあるべき姿を民に見せたいのだそうだ。
私もケーキを絶っているから、気持ちはわかるけれど……。いや、それとは少し違うかな。
「討伐戦の報告は受けてきた?」
「はい。レオン様より報告を受けております」
「兄様は見事な指揮でした。あのカイリシャがあれほど簡単に討ち取れるとは思わなかったわよ」
「陛下もなかなかの演説だったようですね。やはり陛下に行ってもらったのは正しかったようです」
私の役割は演説だった。
前回の襲撃時に私の演説で山賊の動きが止まったということで、作戦に組み込まれたのだ。
今回は兄様も演説に加わってくれたので負傷者を最小限に食い止めることができた。
「そういえば、兄様が今回の討伐戦は騎士団に手柄を立てさせるために、スカーレットが考慮してくれているって言ってたけど、その通りなのかしら?」
「考え過ぎじゃないかしら。元四天王を討伐するのだから、適切な人選をしただけのことですよ」
スカーレットとは長い付き合いだから分かるが、これは兄様の読みが正しいと思う。
兄様はスカーレットのこと、案外分かっているのかもしれない。
「兄様はスカーレットのことを気に入っているみたいだけど、スカーレットの気持ちはどうなの?」
「レオン様って、素敵な方ですけど誰にでもかわいいって言うじゃないですか。『今日もかわいいね』って言われても、そういう挨拶なんだと思うようにしています」
あ、これは兄様が振られるやつだな。
兄様、結構本気のように思えたんだけどな。
「そっか、私はスカーレットが義理の姉になるのも悪くないと思っていたんだけどね」
「私は今でも実の妹のように思っていますよ。とても大切な妹です」
こっちが恥ずかしくなるような言葉を無表情で話せるのがスカーレットの凄いところだと思う。
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