第26話 カイリシャ討伐作戦

 私はグロームスカイ渓谷へと向かっている。

 いよいよ、カイリシャ討伐作戦が開始されるのだ。


 作戦指揮は騎士団長である兄様が執ることになっている。

 今回の作戦では騎士団が中心なのだが、相手がカイリシャだということでゾルトも加わっている。

 私は戦闘要員ではないのだが、特別な役割があって参加している。

 いつものようにセリアナの鉢金を頭に巻いていると、彼女に守られているような気分になるから不思議だ。


 スカーレットに指示された地点へ到着すると、カイリシャの隠れ家がはっきりと見えた。

 隠れ家の前では山賊と大勢の人が揉めている。


 これはスカーレットが仕掛けた計略だ。

 前回の襲撃で多くの戦力を失ったカイリシャは近隣の町や村で勧誘活動を行っていた。

 その際、多額の成功報酬を謳っていたのだが、スカーレットはスパイを送り込んで山賊には払えないほどの好条件に上書きした情報を流した。

 しかも受付日を今日に指定したため、希望者が殺到しているのだ。


 『聞いていた話と違う』、『そんな話はしていない』そんな言い合いがあちこちで繰り広げられている。

 対応するために多数の山賊が隠れ家から出ているが、カイリシャの姿は見えない。


 私たちは隊を二手に分け、左右から挟み込む形で回り込んだ。

 山賊団は混乱しており、私たちの接近には気づいていない。

 山賊団が私たちに気付いたときには、完全に包囲している形となった。


「何者じゃ!」


 山賊の一人が私たちに向かって大声を上げた。


「私は魔王グロリアだ!逆賊カイリシャを討伐するため、騎士団と共にここに来た。この地は完全に包囲しており、お前たちに逃げ場はない」


 私の名前を聞き、さらに混乱する山賊たち。

 目的の人物が目の前にいるが、自分たちは完全に包囲されている状況でもある。

 降伏すべきか戦うべきか、悩んでいるのだろう。


「何を悩んでいる!カイリシャは多額の成功報酬を謳って兵士を募集しているらしいが、こんな山賊に払える額ではないことは見れば分かるだろう。つまり、お前たちは盾をして使われて死ぬだけの役割なのだ。死んだ者に報酬を払う必要はないのだから」


 私がそう言うと、山賊たちにざわめきが広がる。

 ようやく自分たちの置かれている状況を把握できたのだろう。

 そこに兄様が前に出た。


「私は先代魔王の次男で現騎士団長のレオンだ。元四天王のゾルガリスとゾルトもここにいる。カイリシャも元四天王だが、どちらが正当な軍なのか子供でも分かるだろう。抵抗せずに立ち去れ!さもなくば斬り捨てる!」


 そう言って剣を引き抜いた兄様を見て、山賊たちは大声を上げて逃げ出した。

 募集を見てやってきた者たちも同様に逃げ出した。


 その混乱した状況が奴を呼び寄せた。

 そう、カイリシャだ。


「さっきから何やら騒がしいが……き、貴様はグロリア!なぜここにいるのだ」


「いまだ!」


 私がそう叫んだ瞬間、騎士全員が持っていた袋をカイリシャに向けて投げた。

 袋の中からはネズミが出てきて、カイリシャの周りを駆け回る。


「ぎゃあああ」


 カイリシャの弱点はネズミだ。

 動きが止まった僅かな瞬間を見逃さず、兄様、ゾルガリス、ゾルトの3人が取り囲み、一斉に剣を振り下ろした。


 これが、元四天王カイリシャの最期となった。

 私たちは一人の犠牲者も出すことなく、カイリシャの討伐に成功した。


「兄様、ゾルガリス、ゾルト、見事でした」


 私がそう言ったとき、兄様はニヤリと微笑んだ。


「今回はスカーレットがわざと俺たちに手柄を立てさせてくれたのだろうな」


「えっ、どういうことですか」


 私には意味が分からなかった。

 これもスカーレットの計算のうちなのかしら。


「スカーレットは今までの功績が大きいからな。自分一人に功績が偏らないようにバランスを取ってくれたのだろう」


「なるほど、そういうことね。スカーレットが考えそうなことね」


 私がスカーレットを宰相に選んだ最大の理由は、彼女に欲がないからだ。

 私腹を肥やすこともないだろうし、手柄を独り占めすることもないだろう。


 こうして私たちは帰路についた。

 これまでは荒野の移動は怖いものだったが、今日の足取りは軽かった。

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