第25話 光の大魔道士

「陛下、大変です。スカーレット様が光属性の魔法使いに関する重要な情報を入手したそうです。至急会議室までお越しください」


 私がゆっくりお風呂に入っていたら、リナリスがドアをドンドン叩きながら大声で報告してきた。

 リナリス……あなた、わざとやっていないか?


 しょうがない、今日も濡れた髪のまま行って、スカーレットに魔法で乾かしてもらおう。

 あれは暖かくて気持ちいいからね。


 会議室へ行き、スカーレットに髪を乾かす魔法をお願いしたところ、残念そうな顔をして溜息を漏らされた。


「陛下は私が『夜遅くに本を読みたいから魔法で照らして』と言ったらどう思いますか?」


 すごく分かりにくい例えだと思うのだが、どうやら今日は虫の居所が悪いらしい。

 それでも、髪を乾かしてくれるのがスカーレットの良いところだ。


「では、調査内容をお話しますね。まず、現時点では魔界に光魔法の魔法書はありませんし、教えてくれる者もおりません」


「ということは、せっかくの光属性が役に立たないじゃない……」


「はい。ですから、過去の光属性魔法の歴史を調べていたのですが、興味深い事実を知りました」


 今日のスカーレットはずいぶんと勿体ぶった言い方をする。

 いつもは結論からズバッと切り捨てるはずなのに。


「500年程前に『大魔道士ルナティカ』が光魔法で豊かな大地に作り替えたという記録がありました」


「ルナティカですって!あのルナティカ村と関係があるの?」


「はい。ルナティカ村は大魔道士ルナティカによって興された村とのことです。500年前も食糧難の時代があり、偶然にもルナティカは私たちと同じ方法で解決を図ったのです」


 なんという事だろう。

 私にとって第二の故郷でもあるルナティカ村が光属性魔法に縁がある地だったとは。


 長年住んできたのに全く気が付かなかったなんて……。

 そういえば、ルナティカ近辺は魔界の中でも珍しく緑に囲まれた美しい地だった。


「ということは、ルナティカ村へ行けば何か分かるかもしれないのね?」


「運が良ければ当時の記録やルナティカの魔法書が残っている可能性もあります。ですが、私は仕事が溜まっておりますので当分ここを離れる訳にはいきません」


 そうか……、今日はスカーレットの機嫌が良くないと思っていたが、また私と離れるので寂しいのかもしれない。

 ルナティカ村はスカーレットにとっても縁の地なので、帰りたい気持ちも強いのだろうけど……。

 案外可愛いところがあるのね。


「ですが、その前にやっておかなければならないことがあります。逆賊カイリシャの討伐です」


「カイリシャか、頭が痛い問題ね」


 過去に2度襲撃されているし、前回は取り逃がしてしまっている。

 奴が生きているうちは安心して寝られない。

 ルナティカ村周辺で襲撃されたら……と思うと、確かに憂鬱だ。


「残念ながら、魔界にはまだまだ多くの山賊団がいますが、その中で最も大きな勢力です。カイリシャを討伐すれば、他の山賊もしばらくは大人しくなるでしょう」


「前回、撃退に成功したこともあるし、体制が整う前にこちらから仕掛けるということね」


「そうです。今度は絶対に逃さず、確実に討ち取ることが勝利条件となります」


「ということは、既に何か仕掛けているのね?」


 スカーレットは目標を達成するためにできることは何でもするタイプだ。

 既に計略を仕掛けていると見た。


「さすが陛下。長い付き合いですから、私のことをよくご存知ですね。計略が上手くいったら、作戦会議にてお話します」


 これもスカーレットの性格だが、彼女は計略が上手くいくまで絶対に内容を話さない。

 どこで情報が漏れるか分からないからだという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る