第14話 勇者レオニダス

 翌日、王都にレオニダス一行が到着した。

 私は破壊された城門で一行を出迎えた。


「これはどういうことだ!まさか魔族が我々を歓迎するとは?!」


 先頭にいる髭の男がレオニダスなのだろう。

 他に魔法使い2人、戦士1人、僧侶1人が後に続いている。


 魔法使いが髭の男に何か囁いている。罠を警戒しているのだろうか。

 私は彼らの態度に不快感を覚えた。


「勇者レオニダス殿一行とお見受けします。私は魔王グリフォニウスの長女グロリアと申します。勇者レオニダス殿と会談の席を設けたいと考え、お待ちしておりました」


 私は大声で髭の男に呼びかけた。

 髭の男は予想外の事態にも慌てることなく、冷静に返答をしてきた。


「いかにも!私は勇者レオニダス。戦わずに済むのは結構なことだが、会談を受ける前に趣旨をお聞きしたい」


「レオニダス殿は手柄を求めて魔界までやってきたのだと思われますが、魔王の一族はすでに滅びかけており、価値のある首はありません。子供の私を討ち取ったとしても、人間界には何の利益もありません。それよりも、我らの降伏を受け入れ、魔界の資源や技術を手に入れる方がより大きな手柄となりましょう」


「うむ、道中色々見てきたが、確かにセリオス達は私たちの分の手柄を残してはいなかったようだな……あの女狐イシルならやりそうなことか」


 なるほど、セリオス一行が王都をここまで徹底的に破壊したのは、手柄を独り占めする意図があったのかもしれない。

 イシルというのは、確かセリオス一行にいた賢者だったはず。

 それにしても、女狐とは……油断ならない女なのだろうか。


「そうです。この王都の惨状を御覧ください。我々に人間界と戦う力がないことは明々白々、一日も早い終戦こそが我らの望みです」


 レオニダスは仲間と話し込んでいる。

 スカーレットの読みどおり、手柄がほしいレオニダス一行は前向きに検討している様子だ。


「よろしい。会談をお受けしよう。だが、もし偽りの降伏であった場合、即座にグロリア殿の首を貰い受けることになる」


「承知しました。では会談の場に案内いたします」


 会談の場は王宮前の公園に急遽設営した。

 レオニダスは公園に向かう道中、破壊された町並み、戦死者が埋葬された墓の横を通りながら、黙って惨状を見ていた。


「こんな場所で会談とは申し訳ないのですが、このような状況ですからご理解いただきたい」


「いや、これで結構だ。正直なところ、我々も驚いているのだ。セリオスの報告書は読んでいるのだが、こんなことは書かれていなかったからな」


「報告書とは?」


「セリオスが魔王を討伐したという報告書を皇帝陛下に提出しているのだが、こんな大虐殺・破壊については一切記載が無かった。これではどちらが正義か分からぬではないか……」


 予想外だったけど、人間界も一枚岩という訳ではないらしい。

 しかも、レオニダスとセリオスはあまり仲が良くないとは……。


 そうか、だからスカーレットはレオニダスに目を付けたのね。


「では、早速ですが、書面にしてありますのでご覧ください」


 私は予め作成していた降伏文書をレオニダスの前に置いた。

 レオニダスは黙って一通り読んだ後、パーティメンバーに回した。


 書面の内容は、以下の通りとした。

 ・今回の戦争は魔界側の負けとする。

 ・人間界は魔界側の新王グロリア即位を認める。

 ・毎年1回、魔界から人間界に『ミスリル鉱石1トン』を献上する。

 ・人間界から魔界への査察団を定期的に受け入れる。

 ・貿易を開始する。


「この『ミスリル鉱石1トンを献上』というのは実現可能なのか?我々がミスリルを入手できるようになれば、さらに力の差が広がることになると思うのだが」


「もちろん承知の上です。それほどまでの覚悟をもって降伏をすると考えていただきたい」


 ミスリル鉱石は人間界では入手できないため、かなり希少価値の高い金属なのだそうだ。

 金属なのに魔力を多く含んでいるため、この金属で作った武器・防具は鋼鉄製に比べて強力となる。

 人間界でミスリル装備を量産できるようになれば、魔界にとって脅威であることは間違いない。


 脅威の一方で、貿易が開始されれば魔界から輸出できる最も利益が高い品目となるだろう。

 スカーレットは経済問題の解決策として、ミスリルを軸とした貿易を考えているようだ。


「相互技術協力というのは?具体的に何か協力を仰ぎたい事があるのか?」


「お互いの文化や技術を理解し、良いものがあれば指導を受けられるというものです。現在、魔界側で欲しているのは農業に関する技術です。食料問題の解決は恒久平和の重要な要素でもありますので……」


「なるほど、悪くないな。人間界側が学びたいとすればミスリルの精製技術といったところだが、それでも可能なのか?」


「はい、もちろんです」


「そうか、それは良かった。全体的に人間界側が有利だし、この条件で皇帝陛下に奏上してみようと思う。そちらの使者はどなたかな?」


「私、スカーレットが参上いたします。つきましては、準備のため1週間ほど時間をいただきたい」


 私が答えるより早く、スカーレットがそう返事をしてしまった。

 スカーレットが長期間留守にするなんて、今の状況では考えられないことなのに……。

 だが、スカーレット以外に適任者がいないのも事実だ。


「うむ、よかろう。私たちもこの王都の状況をもっと詳しく見ておきたいのでな。スカーレット殿の準備ができるまで、こちらに滞在させてもらおう」


 こうして、勇者侵攻という最大のピンチを切り抜けることができたのと同時に、様々な問題が解決に向かうこととなった。

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