第15話 民と共に立ち上がる新魔王

 王都の瓦礫撤去作業に、驚くべき変化が訪れた。

 なんと、避難民たちが率先して手伝うようになっていたのだ。


 レオニダス一行は、スカーレットの出発準備ができるまで、瓦礫撤去を行うことに決めたのだ。

 毎朝作業前に墓地へ行き、手を合わせてから作業を開始していた。

 この姿に感銘を受けた避難民たちが、彼らと共に協力するようになったのだ。


 最初は人間界の者などに手を貸すなど許せないという避難民が多かったが、彼らの真摯な態度に触れるうちに、敵対心や偏見が薄れていったのだ。

 彼らは、同じ国の仲間として、瓦礫の下に埋もれた者たちのためにも、作業を手伝うようになったのだ。

 瓦礫の下に押しつぶされた住民はほぼ救出され、埋葬された。


「殿下、王都復興の目処が立ちました。3日後に戴冠式を行いましょう」

「盛大な即位の儀は、私が人間界から正式な使者を招待して行います。しかし、法律の制定も重要ですから、まずは速やかに即位する必要があります」


「3日後といえば、スカーレットが人間界との和平交渉のために向かう前日ね。どのように行えばいいのかしら?」


「場所は王宮の中庭でいいと思います。戴冠式と演説をします。参列者は希望する住民全員とし、レオニダス殿一行にも来賓として参加していただきます」


「住民の前で演説をするの?」


 こんな大役、今までに経験がないので不安は募るばかりだ。

 頭が真っ白になったらどうしよう。


「殿下の民を思う気持ちを語ればいいのです。また、新たに制定する法律についても説明するよい機会ですから、合わせて行いましょう」


「ノヴァレインでの出来事を話せば法律の理解にも繋がるとか、そういう感じかしら」


「そうです。法律が国民目線で制定されたことをアピールすれば、支持に繋がります」


 今回新たに制定される法律は以下のとおり。

 ・3年間、全ての税率を半分とすること

 ・3年間、王国内における商売は無税とし、許可を必要としないこと

 ・食料・衣料・住居など生活必需品の買い占め、高額転売を禁止すること

 ・塩・酒は政府の専売とし、決められた価格で販売すること

 ・いかなる理由があっても、人間界への武力侵攻を禁止すること

 ・人間界との貿易は物価の安定を考慮する目的で、国の許可を必要とすること

 ・全ての種族を差別なく扱うこととすること

 ・国の人材登用は種族・性別・家柄ではなく、能力に応じて行うこととすること

 ・全ての子供が学問所に通えるよう、体制を整えること


 大幅な減税には心配なのだけど、スカーレットは現在のような経済破綻状態での増税や緊縮財政は良くないと言っている。

 商売を奨励し、まずは国全体を豊かにすることが最優先なのだそうだ。


 国家予算については、ミスリルの貿易と塩等の一部製品を専売化することで新たに財源を確保する見通しだ。

 3年間は相当厳しいだろうが、これは試練だと思って乗り切るしかない。


 戴冠式の段取りはスカーレットが全て手配するそうだ。

 もちろん、演説の原稿も用意してくれると言っている。

 これでなんとかなりそうね。



 3日後、私の戴冠式が始まった。

 王宮には多くの住民が詰めかけ、戴冠を見ようと壁の上に登る者も少なくなかった。


 中庭に登場した私を割れんばかりの拍手が出迎えた。

 手を振って挨拶をすると、歓声が地面を揺らした。


 中庭の中心で宣誓を行った後、スカーレットが美しい冠を持って現れた。

 父上の冠は盗賊によって盗まれてしまったけれども、王都の職人が新しいものを作って寄付してくれたのだ。

 民の思いが詰まった冠をかぶり、私は新魔王となった。


 心配だった演説も思ったよりうまくいった。

 頭が真っ白になるどころか、民への思いがどんどん溢れてきて、私はいつもより饒舌になっていたのかもしれない。


 こうして、私の魔王としての第一日目は素晴らしいスタートとなった。

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