第3話 無垢な闇、失われた友の影
村の惨状は予想以上に酷いものだった。
怪我人が多すぎて医者が不足しているし、火事や破壊で家を失った者も多い。
村の集会場を臨時の病院として、私の屋敷を避難所として使用することにした。
私は集会場で怪我人の手当てを行い、食事の時間は炊き出しを行った。
「殿下、少し休んでください。このままでは倒れてしまいます」
私を気遣い、そう言ってくれたのは村長のエルリオンだ。
娘のセリアナを失ったばかりだというのに、気丈に振る舞っている。
村長という立場がそうさせているのかもしれない。
それに対し、私はダメだ。
セリアナを失った事実を少しでも忘れようと、ひたすら仕事に打ち込んだのだが何も変わらない。
ただ……虚しさだけが残った。
「村長、私はもう少し働きます。私にできることはこれくらいしかないのです……」
「果たして、そうでしょうか……。殿下は魔王陛下のご息女として、一刻も早く王都に帰還し、兄上の三殿下とともに国の再興に尽力すべきではないかと思います」
王都に帰還……。
私が?何のために?
兄上がいるではないか……。
私など、邪魔なだけだ。
「私はこの村の統治者ですから、まずはこの村の復興が最優先です。それに……兄上達は私よりはるかに有能なのです。私が王都に行ったとして、かえって邪魔になるだけではないですか?」
「私は殿下ならやれると思っています。セリアナも『殿下が魔王になれば魔界はもっとよくなるのにね』と、……よく言っておりました。国を治めるには、殿下ような民を思う優しさが最も重要だと私は思います」
「優しさだけで国が守れるものですか!この村でさえ、私は守ることができないというのに……」
「殿下の器は、このような小さな村で終わるものではありません。もっと多くの民を救うことができるはずです」
「……そなたの意見は分かりました。私にできるとは……思えませんが、少し考えてみます」
村長にはそう答えたが、それは嘘だ。
この議論そのものが苦痛で不快に感じたので、打ち切りたいという一心だったのだ。
私などに何ができるものか……。
きっと、また失敗して、大事なものを失うのだ。
もう、そんな気持ちになりたくない。
そうだ、統治者も辞めよう。
どこか遠い地でのんびり暮せばいいじゃないか。
私にはそういう生活がきっと似合っている。
――
その夜、ベッドに入った私は今までの疲労が一気に出たのか、あっという間に眠りに落ちていた。
そして、夢を見た。
夢の中では、セリアナが満面の笑みを浮かべて立っていた。
「殿下、ご無事で何よりです」
「セリアナ!なぜ死んでしまったの!まだ話したいことがいくらでもあったのに……」
「勝てると思ったんだけどなあ。私が連戦続きだったことを考慮すると、実質私の勝ちですよね?」
「そんなことを話しているのではない。お前がいなくなって、私はどうすればいいのか……全く分からないのよ」
「殿下はご自身で考えているより、ずっと大きな運命を背負っているのですよ。大きすぎるが故に見えていないだけなのです」
「訳の分からないことを言わないで!私はお前とケーキが食べたいだけなのよ」
「そうですね……。私も殿下ともう一度ケーキが食べたいです。しかし、それは叶わないようです。申し訳ありません」
「セリアナ……」
「殿下、私はもう行かねばなりません。でもその前に、お伝えしたいことがあります」
「伝えたいこと……とは?」
「殿下のお名前、グロリアとは栄光を意味します。殿下はこの国に栄光をもたらす存在なのです。それを忘れてはなりません」
「栄光……私には重たい名前ね」
「私との約束です。この国を殿下の力で守ってください。殿下なら、ちょちょいのちょーいという感じですよ、きっと」
「相変わらずね……私はそんな貴方が大好きだったのよ」
「私も殿下が大好きでした。今まで本当にありがとうございました……」
セリアナはそう告げると、私の眼前からすーっと消えていった。
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