第三十一話 気付《きづき》
「あそうだ聞いて! 話に出てきた先輩方が結婚して子ども生まれたんだけど、なかなか子育て上手くいかないらしいの。私に子どもはいないからアドバイスとか出来なくて……。」
「少しなら、力になれるかもしれません。」
「え? 何で?」
松田さんが驚いているが、言っていながら自分も驚いている。考えるよりも先に口が動いており、再び話を続けることにした。
「実は保育士の資格持ってるんです。といっても自分も独身なので、とてもお役に立てる! というわけでは無いのですが──」
「ありがとうフジサワちゃん! 先輩方に言ってみるね。」
松田さんはとても嬉しそうに言い、連絡をするのかすぐにスマホを取り出した。
「真優くんやるじゃん! これでまた、子どもと関われるといいね~。」
「聞いてたんですか、叔父さ……店長」
先程の様子を見ていたのか、店長がニヤニヤしながらこっちに寄ってきていた。自分の言動に驚いたものを引き摺ってか、少し要らないことを口にしたような──
「え、店長ちゃんとフジサワちゃんって親戚だったの? 知らなかった!」
あっ……軌道修正出来るか……?
「実はそうなんですよ~。いい甥を持てて、幸せです!」
「ちょ、叔父さ、」
無理だった……。
「何だい、店長とフジサワくんそうだったのか! 知れた記念にいつもの追加で。」
「じゃあ俺のほうにも追加!」
手遅れだった……。
「何か凄いことになった……。」
「店長ちゃん、私はオムライス注文で!」
「はーい。真優くんは、飲み物のほうに回って。」
まあ、これで話のネタになるなら良いか。
「……はい!」
"もう一つの真明"で過ごしたこともあるけれど、あの時エミちゃんと会わなければ、きっと自分の過去や名前も色んなことも、否定的なままだった気がする。いや、はっきりと否定していたわけじゃない。否定的な自分ですら受け入れない、前はそんな側面の自分だった。それに気づけて良かったと思う。
二度と会うことはないだろうあの子のことも考えながら、今日も夜は更けていった。
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