第二十九話 驚異

「あ、そうだ忘れてた!」

 叔父さんが大きめの声で言った。何だかんだでこの瞬間が一番驚いた。

「君の父親は真明町でも市内でもないけど、県内にいる。姉さんは君との接触禁止命令を妹夫婦とおれで出した。。今は新幹線でなければ行けない場所に暮らしてるみたい。」

「そうなんだ。色々と教えてくれてありがとう」

「え、いいの? 住所一応知ってるから会おうと思えば会えるよ?」

 普通に答えたつもりだったが、素っ気ないように思われてしまったらしい。

「いいや。これらを知れただけで、満足だよ。それに」

「それに?」

 父さんはあんなことして会う気は無いし、母さんに会ったとしたらもう一度刺されるかもしれない──

「ううん、何でもない。」

「そっか。」

 飲み込んだ言葉ごと抱きしめるような温かい手で、叔父さんが頭を撫でてくれた。

「よっし、お昼ご飯食べていくでしょ~。何食べたい?」

「え、いいの?じゃあオムライスで。」

「分かった~、叔父さん頑張っちゃうね!」

「うん。でも手伝うから」

「いいの? ありがとう! 甥と仕事以外で料理できるなんて新鮮だなあ。」

「それはよかった。ところで邪魔になるかもだからポケットの中身、カウンターに置いていていい?」

「勿論いいよ~、でも帰るときに忘れていかないでね? 二階の住居のほうで作って食べるからね。」

「うん分かった、ありがとう。」

自分がそう言うと叔父はカウンターから出て、住居の方に行くために奥へと行った。


 よく考えると、このパーカーを着るのは久し振りだった気がする。何も入れていないと思っていたけれど──


 ズボンのポケットからは、スマホと、お守り代わりの蝶の飾り。尻ポケットからは財布とエコバッグ。

 そして何も入れていないと思っていたパーカーのポケットからは──あの時に撮ったチェキが入っていた。

 不思議な力が働いたのか、チェキはおろかパーカーには血痕どころか傷一つついていなかった。

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