第二十八話 親族

「今までで見た中で、一番すっきりしている表情かおだね。無理やりじゃなく、心の底から前を向いているみたいだよ。」

「そうかな?」

「うん! そういう甥の表情見られて、叔父さん嬉しいよ。」

「なら、結婚早くしろとかもう言わない?」

「な、なるべく控えるように頑張るよ。」

「自分相手なら良いけど、お客さんには言わないでね。これは約束。」

「うぐ、頑張る」

「やってみないと分からないからね。約束してくれただけで嬉しいよ。」

「そっか。」

 そして叔父さんはグラスに入った水を飲みほしてから、頬杖をついて言った。

「真優くん、君も本当に大きくなったんだねえ。」

「ここがしんみりする場面? 普通は叔父さんじゃなくてこっちがしんみりするような気がするけど」

「細かいことは良いじゃない。」

「うん、それもそうだね。」

 営業時間外のバーに、二人の笑い声が響き渡った。仕事中に笑顔を作るときはあるけれど、心の底から笑ったのは久しぶりであるように思えた。



「それよりも、両親のことはいいの?」

「あ、そう言えばそうだった。知ってるんでしょ? 教えてよ。」

「うん、分かった」

「で、あの人たちはどういう感じなの?」

 そう尋ねると、叔父さんは溜息をついてから口を開いた。

「君の父が、誘拐をしたことは知ってる?」

 現場を目撃した、とまでは言えないけれど。

「……何となくは聞いたことあるかも。」

「そう、なら話は早いね。君の父は少女を誘拐をした罪で逮捕されたよ。だけどもう十五年経ったし、今は罪を償って生活しているみたいだね。たまに手紙が来るけど、もう誘拐も不倫もしていないらしいよ。まあ、どこまでが本当か分からないけれど。」

「……」

 話を妙に納得してしまった様子に、叔父さんは少し驚いていた。

「びっくりしたりしないんだね。想像通りだったの?」

「いやあ、あの人なら誘拐はしていなくても不倫はしてそう。叔父さんの見解には同意しかない。」

「そっかあ。」

 叔父さんはグラスに水を注ぎ、飲み干してから再び話し始めた。

「姉さんは殺人未遂で現行犯逮捕されて、裁判で実刑が確定したよ。だけど暫くして、昏睡状態の被害者が消えるという事件が発生したらしい。姉さんが疑われるも勿論あり得ない、牢屋に居たんだから。だから犯人は不明の未解決事件。まあ、同じく罪を償ったけどね」

「……そこまででどのくらい経過してる?」

「約三か月らしい」

「……そっか。」

 ここでの一週間、もしくは一〇日があちらでの一か月換算?そうなると時間的な辻褄が合う。でもあちらでは三か月眠っていたことになるんだから、何というか……。

「ちなみに、姉さんは被害者と君の父を見間違えたらしいよ。面会で言ってたけど、遠くから見たときは本当に似てたって言ってた。でもあの当時で黒マスクは目立つよね。そっと外してよくよく見たら、違う人で驚いたらしい。」

「まあ、最近になってから普及したもんね。」

「そうだね。フフッ。これで被害者が真優くんだったら納得しちゃうんだけど……。おっと、不謹慎だったね。ごめんね、この言葉だけ忘れてよ。」

「いや、大丈夫。」

やっぱりこの人、鋭い。彼からしたら単なる妄想に過ぎないけれど、実際にそうだから怖いものだ。

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