第二十七話 変化

「君の義父である人──藤澤先輩はおれと中高の部活が一緒で、姉とは学級がずっと一緒だったんだ。姉とはわからないけど、おれとはとても仲が良かったんだ。そして春に真明に引越してきたから久しぶりに遊びたいと誘われて、頑張ってタイミングを合わせて、休みを取って旅行に行くことにしたんだ。奥さん──君の義母から許可を取って遊びに行っていたんだけど、その時に事件が起こった。おれの両親──君の祖父母は亡くなっているから、実際に君と血縁関係があって関われる人間はおれと妹──君からしたら叔母であり義母である人しかいなかった。

 事件が起こったことを知って急遽戻ってきたけど、藤澤先輩は誘ったことを申し訳なく捉えてしまったみたいでね。〝責任を取って、俺ら夫婦が育てる〟と言ってきたんだ。本当はおれが育てたかったんだけど、妹も育てることに賛成だったんだ。妹夫婦には知っての通り子どもがいなかったから、職業上子どもと関わっているとはいえ、やはり子どもが欲しかったらしいよ。君を引き取ってから、以前よりも夫婦仲は良くなったって言っていた。」


「え、ちょっと待って」

「ん? どうしたの真優くん」

「叔母であり義母、って……?」

「あれ言ってなかった? 君の義母はおれの妹、つまり君からしたら本来は叔母なんだよ」

「えっ……初耳なんだけど」

「だろうね、言ってなかったし。まあ、あの二人も結構遠くにいたから会えなかったし。事件の前に君が妹夫婦──君からしたらのちの義両親に会ったのは、おれらの母の葬式だからね。まだ五歳の君が覚えてないのも無理ないよ」


 そんな背景があったなんて、知らなかった。よくよく考えたら、叔父であるこの人が引き取る世界線もあっただろう。しかし高学年とはいえ、一人で育てるのも苦労はあっただろうし、若かりし母のもとに生まれた自分を引き取るとなると、その時はまだ義両親も叔父さんも相当若かった訳で……。

 

「改めて考えてみると、自分は迷惑を掛けてばかりだったね。」

「え? どうしてそう思うの?」

「だって、金銭的なことでも、手続きとかも、本当に色々なことで。子どもならまだしも、この年齢になるまで大迷惑を掛けていることに気付けなかった。血縁関係ある人の前で言うのもあれだけど、内容はともあれ、自分は本当に良くない人間であることを痛感した。」

「真優くん……」

「でもそれが、酷い両親の血を引いているからなのか、元からの自分の性格なのか、もう分からない。この歳で変わろうなんて言っても──」

「真優くん。」

 一拍おいて、肩を掴まれて、じっと見つめられて。初めて叔父さんに諭された。

「おれは君を引き取っていないけど、おれにとって君は大切な甥だよ。それはずっと変わらない。妹夫妻にとっても、君は大切なただ一人の“子ども”なんだよ。そして君は自分自身の名前が嫌いだったかもしれないけれど、君は本当に優しい人だ。」

「……あなたは優しい。だけど自分は──」

「それでも血を憎みたいなら、おれを憎めばいい。おれも未だに他の人に対し“結婚しなよ”とか、昔の価値観を吐いてしまうことがある。おかしいよな、おれだってずっと独身なのに。

 ひとは確かに変わるのは難しい。だけど、変わることも出来る。長く付いた価値観や癖などは取り除くことが難しい。

 だから、一緒に変わっていこう? 例えすぐに変われなくても、意識が大切だって思うから。……こんなこと、いい歳したひとが言うなって思われるかもしれないけれど。」

 息を吸って、言葉を発した。

「それもそうだね。確かに年齢は関係ないし、少しずつ変わっていこう。だってもう、一人じゃないって気付けたから。」

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