現代

第二十五話 病院

「──っ!」

 目が覚めると、知らない白い天井が見えた。ここは一体どこだろう?

「良かった、気が付いたんだね~」

 右側から男性の声がした。それも、よく聞いたことのある声が。

「もしかして、店長……?」

「うん、そうだよ。意識が戻って良かった~」

 軽い感じで話している人だが、これが通常運転。時代錯誤的な発言をすることもあるが、悪い人ではない。それにしても、

「どうしてここに居るんですか? というか、ここは?」

 まず聞きたいことはこれだ。

「ここは公立医大付属病院。一番近い大きな病院がここだったから運ばれたみたい。フジサワくんが倒れているところを松田さんが偶然発見して、救急車を呼んでくれたらしいよ。」

「松田さんが⁉」

 松田さんは、ウヌプラスで働く女性。自分より少し年上であり、この店の店員には性別や年齢関係なく「○○ちゃん」と呼ぶ常連さんである。

「そして、それから何日経過したんですか?」

 彼は、落ち着いた口調で言った。

「君が運ばれたのが七月二十四日。今日が八月十五日の火曜日、今は午前十一時。かれこれ三週間くらい眠ったままだったんだよね。」

「そんなに長い時間⁉」

 てっきり、長くても一週間程度だと思っていた。というか、

「準備は大丈夫なんですか? この時間は寝ているはずじゃ?」

 これが気がかりだった。この人は自由人ではあるものの、店のことはしっかりする人間だからだ。

「自分の心配をしなよ、フジサワくん。店なら今日は定休にしているよ。二人しかいないのだから休む時は事前に連絡する、いつものことでしょう?」

 一気に安心したが、それでも休ませてしまっていることが、なんだか申し訳なかった。

「ところで。前に来たときは見かけなかったんだけど、その手に持っているものは何?」

「手に……?」

 見てみると、右手に羽を閉じた青い蝶の飾りが握られていた。




「それにしても、目が覚めて本当に良かったよ。だって、運ばれたときは腹部から大量出血していたらしいからね。まあ、原因不明と判断されたけどね。刺されたとしてもこんなに長く眠っていることなんて基本はないから、もしかして……?とは思ったけどね。それに急に飾りを持っているんだし──」

 “もしかして”、って……。やはり、次のパズルの完成にはこの人が重要なのだろうか。

「あの」

「ん、どうしたの~?」

 覚悟を決めて訊ねる。

「十五年の間に忘れていたことを思い出しました。だけど、末路は経験していないし、聞くことも許されなかったから分からないのです。

 もう自分に遠慮しないでよ、父さんと母さんがどうなったか教えて。〝叔父さん〟?」

「分かった~。でも君が退院してから教えてあげるね、〝真優くん〟。」

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