第二十四話 愛情

「そうだおにいちゃん、」

「うん?」

 少女は帽子を取り、飾りを指さしながら言った。よくよく見ると蝶の飾りは二つあり、羽を開いているものと閉じているものがあった。少女が指さしたのは閉じているほう、左側であった。

「このかざり、取ってほしいんだけどいい?」

 一体何をするつもりなんだろう?

「うん、いいよ。」

 疑問に思いながら飾りを取り、少女に手渡した。

「はい、どうぞ。」

 しかし少女はそれを拒み、手を握ってきた。そうしてこう言った。

「これ、アイスと今日のおれい! これを持ってたらおにいちゃんって分かるから、おにいちゃんの顔をわすれても会えるよ!

 だからこれ、おにいちゃんが持ってて。」

 思いもしない展開だった。だからあの時は、飾りが一つだったのか。でも、

「本当にいいの? 大切にしているものじゃないの?」

 と、問い掛けた。すると少女は

「いいの、おにいちゃんにわたしからのプレゼント。おにいちゃんに持っててほしいんだ。」

 意識が途切れていなければ、後で少女の母に事情を話すことにしよう。

「それじゃあいただくね、ありがとう。ええと……」

「?」

「お名前、聞いてもいいかな?僕は真優まゆうって言います。」

 玄関での自己紹介で聞いていたかもしれないが念のため、自己紹介しつつ質問した。すると、

「いい名前だね、まゆうくん! わたしはエミって言います! これからまゆうくんって呼んでもいい?」

 親から付けられた名前を、ようやく好きになれた気がした。そして、ようやく一つのパズルが完成した気がした。

「うん。会えたら僕の名前を呼んでね、エミちゃん。」


 ──いけない。やはり名前を知ったせいか、もうじき意識が途切れてしまう気がした。

「エミちゃん。またいつか会えたら、その時もいっぱい話そうね。」

「うん!」

「ありがとう──」

 それは、更に驚く出来事だった。

 それは「親愛」なのかもしれないが、同時に「純愛」の現れなのかもしれないと感じた。

 自分の左頬に触れる、柔らかな唇。もしかしたら、これが僕たちのファーストキスだったのだろう。

 唇が離れると、口づけしたあの子が温かい笑顔を浮かべて言った。

「まゆうくん、だい好きだよ」

 

 この瞬間、街に十八時の音楽が流れた。意識はそこで途切れた。

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