第二十二話 笑顔

「良かったら一緒に食べる?これ」

 すると少女はシャボン玉を吹くのをやめ、太陽のような眼差しを向けて言った。

「いいの?ありがとうお兄ちゃん!」

「うん、良かったら一緒に食べよう。」

 こうして少女は少女の母にシャボン液の入った容器と吹き具を渡して、自分が差し伸べていたアイスを受け取った。一方で、急な展開に少女の母は驚いており、とても頭を下げられた。

「ええと、お隣の真優まゆうくん?だよね。ごめんねうちの娘が……、本当に貰って良いの?」

 本当に心配そうな表情をしているため、諭すかのように言ってみた。

「大丈夫ですよ、母が僕のために買ってきてくれたものですから。僕が自分のものをどうするかは、所有している僕自身が決めることです。」

 すると少女の母は驚いたような表情を浮かべた後、微笑んで言った。

「何か真優くんって大人っぽいんだね。お母さんから聞いていたけど、本当にしっかりしているんだなあ。」

 違います。確かに当時から小五男子よりはしっかりしていたかもしれないけれど、今あなたの目の前にいる男子の中身は成人男性です。まあ、そんなことは勿論言えるはずがないので

「ありがとうございます。嬉しいです」

 と言っておいた。すると、少女の母は再び微笑んで

「そうだ、家に来ない?ご飯作ってあげるね」

 と言い、いつの間にか流れで夕ご飯をご馳走してもらえることになった。そして、

「夕ご飯できるまでどうしようかしら……。」

 と少女の母が呟いたとき、少女が

「わたし、おそとでアイスたべながらおにいちゃんとおはなししたい!」

 と言った。少女は既に半分ほど食べていたが、その笑顔はやはり眩しいものだった。

「娘がこう言っているのだけど……真優くん、いいかしら」

 少女の母の問いかけに対して自分は大きく頷き、

「いいですよ」

と答えた。

「わかった、じゃあ家の前で過ごしてね。出来たら呼ぶから」


 こうして、少女と二人でアイスを食べながら話すことになった。と言っても既に少女は七割ほど食べており、自分のアイスはだいぶ溶けてしまっていたのだが。まあ、気にしないで食べるとしよう。

 再び食べ始めたとき、少女が口を開いた。

「ねえ、おにいちゃん。」

 話をするという流れだったが、急に話しかけられて驚いてしまった。思わず多めに吸い込んでむせたが、少しだけ冷たいアイスが喉を通っていくのがよく分かった。気を立て直して

「どうしたの?」

と問いかけると、

「わたしもういっぱいたべちゃったけど、いっしょに食べるとおいしいね!」

 少女はもうじき食べ終わるというのに、太陽に負けないくらいの笑顔でそう言った。


 ああ、どうして自分は、この子の名前を忘れてしまったのだろうか──

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