第二十一話 氷菓
「またねー!」
「うん、また明日。」
気が付くと、今度は友人と遊んでいた場面に切り替わった。公園の時計を見ると、もうすぐ十七時。夏の日照時間は長いが、暗くなる前に帰るのは健全な証拠な気がする。どうやら夏休みのようで、宿題を早めに終わらせるためにこの時間に解散することにしたらしい。我ながらしっかりしていたように思える。
マンションに帰ってみたが、案の定母は帰ってきていない。まだ仕事だろうか、鍵が掛かっていたのが証拠だ。ズボンのポケットに手を入れると、キーホルダーのついた鍵が出てきた。懐かしい、家の鍵だ。
そういえば過去に来る前に、アパートの鍵を掛けたときに光った気がする。あれのこともあるから、少し心配だけど開けてみよう。
──ガチャ。
開けてみたが何の光も放たない。まあ、これが正常なのだが。
中に入り、リビングに向かう。カレンダーを見ると、今日は七月二十三日らしい。これの次に日にあの事件が起きたのか──そう思うと複雑な気持ちになった。気を紛らわすために部屋を見渡すと、テーブルの上に母からの置き手紙があるのが見えた。その手紙には
「冷凍庫にアイスあるから食べな。宿題もやりなね」
と書いてあった。離婚前後から父への態度は良くない母だったが、自分へはこのような優しい側面もあった。
冷凍庫を開けてみると本当にアイスが入っていた。しかも、二つに分けることが出来る、あのアイスのホワイトサワー味だった。
これはもしかしたら……?少女と一緒にコンビニ前で食べたときに感じた懐かしさ、今なら分かるかもしれない。
予感を明らかにするため、少女に会おうと思った。そのため、外に出て家の前で食べることにした。
外に出て、玄関ドアの前でアイスの袋を開けた。すると右隣で、見覚えのある帽子をかぶった少女と少女の母がシャボン玉をしているのが見えた。その家はちょうど角部屋のため、通路の端でシャボン玉をしていても迷惑はかからない。
それにしても、タイミングが良すぎる。まあ、当時の自分はもしかすると「外で食べたかったから」という単純な発想だったのかもしれない。そう考えると、「タイミングが良い」というより、「偶然の巡り合わせ」なのだろう。人生って本当に不思議だ。
いけない、そんなことしているとアイスが溶ける。急いで二つに分けて片方を袋に入れ、もう片方を開けて口にくわえた。
良かった、まだ溶けてない……。ということに安堵した次の瞬間。少女がキラキラした目で自分を見ていたのに気が付いた。シャボン玉を吹きながら、目線はこっちに向いている。
だんだん思い出して来た気がする、自分のことに関する事実も。
もしかしたら、あの時感じた懐かしさって……。
気付いたら身体が動き、自分は少女のところに歩いていた。そして、目線を合わせて、アイスを片方渡して言った。
「良かったら一緒に食べる?これ」
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