第十九話 意識
気が付くと、あの花畑に戻ってきていた。どうだった? と尋ねるように、目の前で青い蝶がふわふわと飛んでいる。多くのことを知れた、と伝えるように蝶に対して頷く。
しかしこれで色々はっきりした。鍵を閉めた時の光は「助けて」という過去からの叫びのようなものであり、先ほど見ていたアパートの様子は、自分と少女が出会わなかった世界線の物語。自分が変えた、過去の話。だけど、ウヌプラスで見た景色まではきっと同じ世界。
でもあの電柱で出会った時には父さんはいなかったから、きっと自分と同じ顔をした人間が向かってきたことに驚いて逃げたのだろう。加えて当時では珍しい黒マスクを着けていると来た。……同じ顔じゃなくても逃げられそうだな。そう考えると、少女はともかく高校生たちは見た目で判断しない人間である、ということが分かった。ぜひ戻ったら、大人になった彼らに出会いたいところだ。
少し思考が脱線したが、とにかく、見てきたものが本来の十五年前の世界。そしてこの後、父さんは母さんによって刺されるんだ。義両親からの情報では、父さんと母さんは遠い場所で別々に生きていると聞いたことがある。だから生きていることは確実だ。
じゃあ、母さんの罪はどうなる?父さんはどこにいる?
……いや、自分が知りたいことは知れた。あとは、十五年後に戻れたらどこかで聞くことになるだろう。もう大丈夫。
あとは、少女に感じていた懐かしさを知りたいだけだ。それを知れば、少女の名前を思い出せるだろうか? 名前だけ覚えてないのは謎だが、きっとバグの一部だろう。思い出せなくても、今は平和だと願う懐かしさに会いに行こう。
「自分の過去に、連れてってもらうことは出来る?」
駄目元で蝶に尋ねてみると、蝶は先ほどのように、先導するように飛んだ。しばらくするとあの大樹の前で飛ぶのをやめ、自分の右手に止まった。
前はからくり時計の音が流れていたが、今回は夏の暑さを含みつつも心地よい風が吹き抜けた。風に吹かれながら、とても大切な記憶のようであるように何故か思った。
さあ、もう一つ過去を知ろう……!
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