第十八話 一室
場面が変わった先には、あるアパートの一室だった。少女とワンピースを着た人物がテーブル越しに向かい合うように座り、少女の横では扇風機がかけられていた。
しかしどうしてだろう、あの大人の雰囲気を知っているのは気のせいだろうか。
そして何も出来ないこの状況、もしかすると自分の姿は見えてない……?
「お茶、おいしいかい?」
大人は優しく少女に問いかける。
「うん、おばさんありがとう!」
「落ち着いたみたいだねお嬢ちゃん、さっそくだけど君には残念ながら死んでもらうよ。」
急に冷酷な発言をする大人を見て、少女は一気に不安な表情を浮かべた。
「え⁉どうして……?」
大人はゆっくりと少女に話す。
「数年前に妻と離婚して浮気相手と一緒になったんだけど、その人とも昨日別れたんだ。だからとてもむしゃくしゃしててね。君みたいな幸せな子を殺さないと気が済まないんだ。そして、君が記念すべき一人目。喜んで死んでほしいな。」
こう言うと、大人は長い髪……のウィッグを外し、短い黒髪が露わになった。この時、少女も気付いたようだった。
「おばさん……じゃなくておじさんだったの?」
「そうだよ。君たちを見て羨ましくなって、妬ましくなって。ウヌプラスにウィッグが売っている場所があって本当によかったよ。」
その大人の顔をようやく見ることができたが、次の瞬間、心臓が縮こまったように感じた。
「君が死ぬ前にこの写真を見せてあげるよ。実は一人息子がいてね───」
「彼」は自分をよく知っている。そして、かつて自分は「彼」と暮らしていた。
「息子の名前は真優。君がこの後も生きていれば、どこかで出会えたかもね。」
その大人は、昔は好きだった自分の父親であった。
「本当にごめんね。あの世でまた会えたら、いっぱい遊んであげるからね。」
「いやだよ……くるしいよ……だれかたすけて……」
もう見ていられなかった。笑顔で一緒にアイスを食べていた少女が、一緒に暑い中歩いていた少女が。自分の父親に首を絞め殺されるなんて。
「おじさん……ごめん……ね……」
少女がこう言った瞬間、謎の光が少女の身体を包んだ。それはまるで、鍵を閉めた時の光のようだった。
「不思議なお嬢ちゃんだ。もっとたくさん話せばよかったかな? まあいいや。またね。」
大人が止めを刺し、少女はもう何も話さず、動くこともなくなった。
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