第十三話 記憶
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そう。自分にはその記憶が無い。気づいたら入院していて、母親が逮捕されたことを知られた。
その後にはある夫妻の養子になり、フジサワ姓を名乗るようになった。義両親は良くしてくれた。多感な時期ということもありたくさん迷惑を掛けたかもしれないが、愛情をたくさん注いでくれた。二人ともあたたかく、優しい人間だった。叱ることはあっても、理不尽ではない。自分が今このように生きているのは義両親のおかげだと思っている。
でも自分には不倫をした父と、その父を刺した母がいる。もしかしたら自分にもその遺伝があるかもしれない。根拠なんてわからなかったが、時が経つにつれて夢と板挟みになっていった。
本当は別の仕事に、保育士になりたかった。義両親がそうだったから。でも自分には合わないかもしれない。いずれ子どもを、子どもたちを傷つけてしまうかもしれない。それが怖くて、子供を傷つけたくなくて。専門学校を出て何とか資格を取ったものの、子どもと敢えて関わらない場所であるバーで働くことにした。専門時代からアルバイトでお世話になった場所ということもあり、店長にはなんだかんだ感謝している。
そして今も真明で暮らしているのは、いろんな過去があったものの、この街が大好きだからである。
義両親も、あの店長のことも。
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ふと我に返って、多くのことを話している感覚に気付いた。
「なんかすみません、こんな話で。」
「いえ、大丈夫ですよ。話してくださってありがとうございます。無理させてしまいすみません。」
お互いに無言になった瞬間、からくり時計が作動した。私服警官は親子を見守っていた。それを確認した自分は時計に目を移し、懐かしい平和な過去を思い出しながら見ていた。
長年聞いていなかった音、十五年後には動いていない時計、二度と味わえないこの瞬間。いつの間にか涙を流していたことに気が付いたのは、からくりが閉じて普通の大時計になった時であった。
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