第十二話 親子
「おかあさん!はやく!」
「はいはい。そんなに焦らないで。時間あるから。」
こちらまで笑顔になるような仲の良い親子が離れないように手をつなぎ、吹き抜け広場に向かって走っていく。からくり時計が動き出すまであと七分ほどだ。
「ところでフジサワさん、聞きたいことがあるのですがいいですか?」
一緒に帰ることになった私服警官が問いかけた。
「はい。どうしたんですか?」
「私の定時も事情聴取も終わったので答えるのは本当に自由なんですが、あなたの地元ってここ、真明なんでしょうか」
一呼吸置き、答える。
「はい。地元はここです。引っ越したりしましたが、この辺りの学校に通っていました。まあ、色々ありましたが……。」
「何かあったんですか? 答えたくなかったら答えなくても大丈夫です。」
警官が優しく質問した。せっかくだから、一人くらい過去を知っている人がいても良いかもしれない。
「いえ、この機会ですし。話させていただきます。但しあまり傷つきたくないですし、今は大丈夫かもしれないので、念のため置き換えながらでも良いなら。」
こうして、過去の話を口にした。
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父親が不倫して両親が離婚してから、母が変わってしまった。優しいところは変わらなかったが、笑顔が少なくなり、父の愚痴と恨みが激しくなっていった様子を、一〇歳に満たない自分でも感じ取っていた。しかし、事態は五年生の時に急変する。ある日、母親が父親を刺して逮捕されたらしく、以来両親とは会っていない。
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「え、初手から……。そのような話とは知らずにすみません……。」
「いえ、大丈夫ですよ。五年生のこの頃の記憶はあまりないので、後から聞いた話になってしまうんですがね」
「いやいや。本当に大丈夫なんですか?」
息を吸ってゆっくりと口を開き、再び詳細を話す。
「実は、母親と離れるあたりの前後一週間の記憶が無いんです。本来なら残っていてもおかしくないものなのに。」
そう。自分にはその記憶が無い。
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