第四話 太陽

「すみません、これも……。」

「はい、お預かりしますね。」

 安さにつられて、ついでに麦茶を二本買ってしまった。熱中症対策にはちょうど良かったかもしれない。バッグには保冷のホルダーも入っていたため、ぬるくなりにくくなるのは本当に助かった。ちなみに保冷ホルダーを使うのは、もちろんエミちゃんのほう。自分はまあ、ぬるくなってもいいや。飲めればいいし。

「ありがとうございましたー」

 会計を済ませ、エミちゃんとコンビニを出た。中にイートインスペースが無かったためコンビニの前で食べることにしたが、屋根がいい感じに日除けになっている。

「はい。エミちゃん。」

「ありがとう!」

 エミちゃんにアイスを半分渡し、自分も食べた。甘さと冷たさが口の中に広がり、心が落ち着くようであった。考えてみると、夜は仕事をして昼は眠っていることが多いため、この時間帯に外でアイスを、しかも誰かと食べるのは久しぶりだった。最後にそれをしたのは一体いつだったか──覚えていない。遠い昔だった感覚がする。思えば前にもこんなことがあったような……

「フジサワさん、」

 エミちゃんに声を掛けられ、ハッと気が付く。

「ん? どうしたの?」

 月の下で生きる人間に、少女は太陽のような笑顔を向けて言った。

「つめたくて、おいしいね。フジサワさんとたべると、もっとおいしいなって思った!」

 誰かと食べる普通のアイスだけれど、

「うん、一緒だと美味しいね。」

 冷たいのに今までで一番あったかくて、涙が零れそうになってしまった。

 その時何故か、かつて諦めた夢があったことを思い出した。自分はもしかしたら傷つけてしまうかもしれないと思い、諦めてしまっていたものを。でも、心の奥底にまだ残っていたなんて。自分でも知らなかった。


 横の少女を見る。まだ純粋無垢で、幸せに包まれている表情をしていた。

 幸せな世界で過ごして、ある日迷子になる。

 こうならなかったら君が不安になることは無かったかもしれないが、君に会えてよかったと思う自分もいる。どうしてエミちゃんに懐かしさを感じてしまうのかは分からない。けれどもし君の未来で、自分の生きる世界で会えるのなら、何か分かるかもしれない。そう思った。

 アイスを食べきってごみ箱に捨て、前を向いた。

「よし、じゃあ行こうか。」

「どこに行くの?」

「少し遠いけど、ウヌプラスに。そこならまだお母さんがいるかもしれない」

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