第25話 新たな出会い

バル王国を出て、ちょうど今日で、3ヶ月。

徒歩での移動はやはり思った以上にキツいな。


「で?どうすんの?」


「どうするって何がだよ。」


「俺らの荷物。持ってかれたぞ?」


「ふぅ…」


そして、今絶体絶命の状況とも言えるだろう。


「なんで、こうなった?」


俺は草むらに隠れるフウシに問う。


「いや、別に…お前が食料取りにいった時に休憩場所探してていい場所があるなぁって思って荷物置いたら、そこがベージェクトの巣だったので、ベージェクトによって俺だけがここにぶっ飛ばされて、荷物は巣の中に取り残されたわけですけど…」


ベージェクト。それは甲羅を背負った約15mほどある大型のアンキロサウルスのようなドラゴンである。硬い甲羅は剣をも通すことはできないと言われている。


「うんうん…なるほど…ってぇ!!なるかぁ!!!!」


俺はフウシの頭をガシッと掴む。


「待て待て!!!俺は悪くないぞ!!!悪いのはベージェクトだ!!!そ、それに今日の晩御飯も見つかったじゃないか!!!」


「はぁ…お前なぁ…」


まあでも、確かに晩御飯を見つけられなかった俺も戦犯ではあるし…


「仕方ねぇ…片付けるか…」


「そうこなくっちゃ!」


この怪物のために設計されたような、石の床の広場。

ベージェクトは、崖の影で、ゆっくりと昼寝をしているようだ。


手の届く範囲に、俺らの荷物をまとめて。


「よし!突撃だ!!!」


「オッケー!」


俺ら二人は茂みから、一気に出ると光の魔術陣を俺は作った。


剣を抜いた、フウシは前衛。魔術陣を作った俺は援護の位置である。


フウシに気づいたベージェクトはすぐに足に力を入れ、重たい甲羅の体を立ち上がらせると、「ゴオオオオオ!!!!」と鳴き声を発した。


フウシは、ベージェクトを囲むように、弧を描きながら走っていくと、ベージェクトは、その重たい尻尾を振り出す。


先端が鉄球のように、硬い思い尻尾は、地面を削り左右に飛ばしながら全身する。


「避けろ!!!」


「わかってるって!」


フウシは、5mほど、跳び鉄球のような尻尾を交わすと、荒れた地面の上を翔る。

一回転し、真っ直ぐにフウシを見つめるベージェクトは、再び、雄叫びを上げた。


「ガアアアアアアア!!!!!!」


「今だ!!!!」


フウシは、一瞬の隙を見計らい、突如、ベージェクトの足元へ、急接近すると、剣よりも先に左手を伸ばした。


だが、左手は、ベージェクトの足に数センチ届かず、ベージェクトは、翼が生えたように20mほど、高く跳び上がった。


「まずい!!!飛鳥文化アタックくるぞ!!!」


俺が忠告を促すと、フウシは俺の方向を見て「え!?なにそれ!?」と叫んだ。


次の瞬間、空中で甲羅をボールのようにして、丸くなったベージェクトは、地面との衝突音と共に、掃除機のように、地面を駆け巡る。

丸くなったまま。


「大玉転がしかっつうの!!!」

丸くなったまま地面を駆け巡るベージェクトに追いかけ回されながら、フウシはなんとか、そこら中を逃げ回る。


「仕方ねぇ!!!」


練り途中だった、魔術陣を急ピッチで完成させると、俺は魔術を撃ち放つ。

雷神ゴットサンダー!!!」


未完成の魔術は、中途半端な大きさで、大きな岩のように、地面を転がり回っているベージェクトに当たり、辺りに砂埃を撒き散らす。


「クッソ!!!」


砂埃を撒き散らしたベージェクトはいつの間にか、通常の亀のような状態に戻っていた。


「あぶね〜!!!!」


「今だ行け!!フウシ!!!」


フウシは、再びベージェクトに向かって突っ込み、左手をベージェクトの足に当てた。


「来た!!!UZ!!!!」


フウシの渦の掛け声と共に、ベージェクトの一本の足は、引きちぎられる。


フウシの渦。それは、触れた物体に回転力を与える能力。

つまり!!!下手に剣で攻撃するよりは案外強かったりすることがある。


「グアアアアアア!!!!」


「まだだ!!!」

フウシは剣を逆手に持つと、ベージェクトの体の下をスライディングで、通りベージェクトの喉の下にまで滑り込む。


「オラァ!!!!」

フウシはその掛け声とともに、喉元に向かって、剣を振り上げた。

喉元は、鋭い刃によって引き裂かれ、赤い大量の血液が流れ出す。


「もうちょい!!!!!」


「完成した!!簡易的では歩けど、受け取れぇぇぇぇ!!!!!!」


俺は、自分が持っていた、一本の木の棒を投げる。


木の棒は、空中を舞ってから、フウシの手元へと、伝わる。

フウシは直ぐ様、先ほど開いたばかりのベージェクトの喉の傷口の中に差し込んだ。

そして、大声で、「着火!!!」と叫ぶ。


次の瞬間、傷口の中に入れた木の棒は大きな音と、光を立てて爆発する。


同時に砂埃が周りに広がり、爆風によってフウシは数十m飛ばされる。


「どわああああああ!!!!!!!」


受け身を取ったフウシは、直ぐ様その場で体制を整える。

そして、次の瞬間、砂埃の向こう側に首のちぎれたベージェクトのシルエットが浮かび上がり、ドスン!!!という重いものが地面に落ちる音がした。


「しゃああ!!!!荷物取り返してやったぜ!!!」


「ふう…って!!フウシ!!!」


「え?」


するとフウシのすぐ後ろにぶっ飛ばされたベージェクトの頭が降ってくる。

もう少しずれていたらフウシが潰れそうなくらいに。


「あ、あぶねー!!」


「油断するなよ!!!」


「わ、わかった…」


すると、幽霊のような声がかすかに聞こえる。

「グ、グァァ…」


次の瞬間、飛んだはずのベージェクトの首の口が開き、弾丸のように、口の中にあった舌が、フウシに向かって発射された。


「え」


「危ない!!!」

知らない声が響くと、フウシに向かって発射された舌はフウシの体を貫くことなく、液体のようになって、ドロドロに溶けた。


緑の液体を添えて。


「あ、危なかったね〜!ベージェクトは生命力が強くて、頭を吹っ飛ばされても、数分は意識があるんだ。まあ、動ける時間は、そう限られていはないけどね。」


フウシの隣にいたのは、緑色のゴーグル付きの帽子を被った少年だった。

多分、俺らと同い年?位の背格好だ。


「え、だ、誰?」


その場に唖然として立ち尽くしているフウシを置いて行って、一人ただ喋る少年に俺も近づく。


「え、えっと、冒険者の人?」


「え?まあ、そうだが…」


「へー!ベージェクトを倒せる冒険者がいるんだー!!!戦ってるところ見たかったな〜」


「え、えっと…あなたはどちら様で?」


少年は、2回瞼をパチクリさせると、自分を指差す。


「あ?僕?」


俺らは黙って首を縦に振る。


「僕はね!!ジリス!ここの近くの村に住んでるんだ!」


こりゃ、また純粋な少年が来たな。と思うと、俺らは、順番に自己紹介をする。


「え…っと。オッス!おら、フウシ!」


既視感のある自己紹介を終えると俺は続けて自己紹介をする。


「あ、どうも、ヒスイです。コンちわ。」


「ヒスイにフウシって言うんだ!!よろしくね!!」


ヨロシク???


「あ、そういえば、ここら辺に村があるって言ってたよね!もしかして、そこって宿屋とかある?」


「宿屋?ああ、あるよ!」


どうやら、今夜の寝床は決まったらしい。

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