第24話 公の影

「おい!!!ここにヒスイってやつとフウシってやつがいるらしいが、何奴だ!?」


店に入ってきた大男は、片手に大きなナイフを握りしめ、荒くれ者のような肩パットをしている。


「全く…せっかくラーメン食ってたのに…」


俺は箸をその場に置き、チャイナタウンを模したような提灯の店の中の椅子から立つ。


「ほんと、ラーメンなんて、こういう」の国でしか食えないのに…」


大男はナイフを俺らの首元に向ける。


「お前らか?この紙に写ってるフウシってやつとヒスイってやつはよぉ!!!」


大男は、ナイフを突き立てながら指名手配書の紙を一枚どこからか出した。


「ああ。正解だ。俺がヒスイで、こっちがフウシ。で?あんたはなんだ?俺らの食事の邪魔か?」


「ほんと、食事くらいまともに食べさせてくれよ…」


そう言うとフウシはため息を吐いた。


「お前らを殺したら、賞金が高く付くんだ!!」


「チラシには、捕まえたらって書いてあるけど?」


「るせぇ!!!まずはお前からだ!!!潰してやる。ちょっと表に出ようや。」


「はぁ…仕方ねぇなぁ…」


俺は暗闇に包まれたラーメン屋を後にした。フウシに会計を任せて。




大広場には、最近建設されたばかりのチャイナタウンのような建物が並んでいる。


空には三日月だけが浮かんでおり、太陽の姿はない。


「それじゃあ、さっさと片付けさせてもらうぜ!!!」


「はぁ…別に殺す目的なら奇襲とかあっただろ…」


大男は、ナイフを逆手持ちに構え、馬鹿みたいに突進してきた。


「はぁ…これだから荒くれ者は嫌いなんだ…」


俺は手を目の前に掲げ、すぐに魔術陣を思い描き、空中に描いていく。


「何もしないなんて馬鹿なやつだぜ!!!!!」


「馬鹿はお前だ。」


0.5秒にも満たない小さな時間。

その中で俺は一つの魔術陣を自分の真上に描きこんだ。


「じゃあな!!!お馬鹿さん!!!!!」


「それはこちらのセリフだ。雷神ゴッドサンダー


俺がその詠唱を唱えると、魔術陣は光を放ちながら、黄色の半径1mほどの光線を放つ。


光線は、大男に当たり、たちまち骨も残さず灰へと変えてしまった。


「全く。敵のことを調べなければならないものを…」



俺らが、魔王城の国を今日でちょうど1年か…


早いもんだな…


「おかえり。生かした?」


「まさか。」


この一年。俺たちはずっと地獄を見せられていた。


最初の悲劇はこの国、バル王国に来たときからだ。魔王城から旅立っても5年で着くと言われていたバル王国を俺らは転移魔術を使うことによって3ヶ月に短縮したところまでは良かった。


だが、俺たちが来たとき、バル王国はすでに壊滅状態。


中心となっているはずの城は半壊しており、王国を統べる王はすでに死去。


住宅街に踏み込めば、残っているのは生き物の頭蓋骨やそれらの周りを舞う蠅と木屑の数々。


住める場所はバル王国中心にはもう無く、俺らは招かれるように、戦争によって勝利した国。


中央国家センピゼントによって建設された、チャイナタウンに滞在していた。


俺たちはチャイナタウンを出ると、すぐに、チャイナタウンの空き家に向かった。

まあ、俺たちが《空き家にした》のだが…


「で?何か掴めそうなことはあったか?」


「いいや…アーサーのことは何も…」


「ここもハズレか…センピゼントの大使館幹部の家だろ?なんかアーサーに繋がる書類の一つや二つはあるんじゃねーの?」


「でも、本当にセンピゼントとアーサーって関与してるのかなぁ?」


「いや、関与してるはずだ…絶対に!!!」


「確かに、チャイナタウンっていう文化は俺らの世界の文化だから、俺らの世界の…転生者が関与してる可能性が高いけど…」


チャイナタウン。それは中国の文化を模した街並みのことを示唆するわけだが、この世界にチャイナタウンという文化はない。


つまり、俺らの世界、現実世界から持ち込んだ文化。つまり転生者が持ち込んだ文化という可能性が高く、これを建設した中央国家センピゼントは、アーサーのような転生者の支配権内にある可能性が高い。


「それだけじゃない…さっきもあった通り、俺らはついに犯罪者のような扱い方をされ始めたぞ?」


「それって…」


「さっきの指名手配書だ。アーサーはどうやら本気で俺らを捕まえに来たらしいな。」


「もはや、俺らを狙っているそう考えるしかない。」


「それじゃあ、まだアーサーの情報とか、拾い続ける訳?」


「いいや、そろそろ移動しよう。ここに9ヶ月も滞在しているんだ。アーサーの兵が帰ってきてもおかしくない。そうなると、俺ら2人だけと、何万による勢力じゃあ、勝ち目がないからな。」


今は一時的にセンピゼント軍が国に帰り、装備を整えている状態で、転移魔術陣を使えば、そろそろ帰ってくる時期だ。


「それじゃあ、明日にはここを出ようか。センピゼントに行けば、アーサー軍について何かわかるかもだし。」


「魔術陣は使えないか…俺らはとっくに犯罪者扱いだし。」


「足で行くしかないんだ…」


「しゃあねえよ。とりあえずここの家に戻って来る奴はこの世にはいねぇし、今日はここで寝ようか。」


「大丈夫か?敵とか後から来そうだけど。」


「まあ、トラップ魔術陣を玄関に貼っておくか。」


「りょーかい」


俺らはその後、一枚の毛布をかぶって眠りに着いた。

この旅が早く終わることを願って。




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