第23話 緊急会議と旅立ち
「報告は以上だ。早くいってもいいか?」
「ああ。いいぞ。行ってくれ。」
フウシがそういうとブランチは急いで、客室を出ていった。
「あれからどうなんだ?急にレントレスさんが運ばれてきた時は、どうしたのかと思ったけど。」
「レントレスは今、城の治癒士が付きっきりで見守っている。そのおかげでか、レレントレスはとりあえず、今は眠ったままだが、山場は通り越したらしい。」
「ならよかったな…」
俺は自分がスキル黒板で空中にまとめてある今回の事件の内容を再び大雑把に全体を見る。
そして、一番大きく書いた文字を読んだ。
「アーサー…」
「今回もアーサーが関係してるのか…」
「アーサーは俺たちを狙っていると考えた方がいいな…」
そう言うと、フウシは黙り込む。
「どうしたらいいんだ?」
「どうって?」
フウシは俺の書いた黒板の文字を見つめる。
「レレントレスもやられた相手だ。そして、今回の被害総額は、1万ジューラあまりにも被害が大きい…まあ、死亡者が一人も出ないだけは、マシな方か…」
「この世界の金の単位のジューラって、だいたい日本円にしてどれくらいなんだ?」
「1ジューラで、大体、日本円で、1000円くらいだから…」
「1億円!?」
俺はその額を理解すると、腰を抜かす。
「そうだな。道の舗装に、噴水に、空き家…それら全部合わせると、それくらいは掛かるかな…」
「ま、まじか…」
「まあ、人一人として死んでいないんだ。人が居れば、なんとでもできる。でも…」
「でも?」
「でも、俺は俺がいることによって、この国の人達が危険に脅かされるのが嫌だ!!」
「それってどういうことだ?」
「アーサーたちは俺を狙っているんだろ?」
「ああ…まあそうだけど…」
「だったらさぁ____」
_________________________________________
「レレントレスさん!!!」
「ん?」
俺が病室に飛び込んだ時、色々なところに包帯を巻かれている、レレントレスさんが俺の目に写った。
レレントレスさんは、布団で下半身は隠れているが、見える範囲だけでも、包帯がぐるぐる巻にしてあった。
「よ、よかったぁ…」
俺は安心のあまり、その場に座り込む。
「どうしたの?そんなに心配だった?」
「心配ですよ!!!もう…本当に良かった…」
「ははは…こっちきて。話したいことがあるの。」
レレントレスさんは優しく俺を手招きした。
俺はそれに応えるべく、ベットの横にある椅子に座った。
「本当に大丈夫なんですか?」
「うん!大丈夫!」
俺は一息つく。すると…
「えっ!?」
俺の胸元に、柔らかい髪の毛がふわりと掛かった。
「れ、レレントレスさん!?」
「私…怖いよ…」
俺はレレントレスさんの方を見ると、何かが反射した。
「私が目を瞑ると…何かが私の心を覆うの…それが、私は怖い…」
俺は何も言わずに、ただ、レレントレスさんの言葉を聞く。
「戦うのも怖い…あの痛みも…私は怖い…」
俺の背中の布が、レレントレスさんによって、ぐちゃぐちゃになる。
「なら、僕が居ますよ。」
「え?」
「僕はなんってったって、レレントレスさんの倒せなかったあいつを倒したんですから。」
俺は顔をあげて、瞳を濡らしているレレントレスさんの頭をそっと撫でる。
子供の様に抱きついているレレントレスさんの目には、雲がかったように不安が渦巻いている。
俺はその不安を取り除くべく、レレントレスさんの唇に俺の唇を当てた。
「あなたは俺が一生をかけて守ります。守ってみせます。絶対に。」
レレントレスさんは、小さい頃に母親を殺され、自分の母の愛を知らない。
それに、母親から離れられていない。まだ、子供なんだ。
俺は震えた子供の手を握った。
「ひゃ!!!え!?え…………えっ!?!?」
どうやら今になってレレントレスさんは言葉の意味と、俺がした事の意味を理解したようで、レレントレスさんは顔を真っ赤にしてベットの上で暴れている。
「ププププププププププププ…ぷ、プロポーズ!?!?!?」
「まあ、似たような感じでしょうか…」
俺も頬を少し赤らめて言う。
「は、はあああああああ…………」
レレントレスさんは、顔からたくさんの蒸気を出すと、目を動かさずに、その場で、気絶した。
「あれ?レ、レレントレスさん…?」
「あ!居た!!」
レレントレスさんの気絶した姿を見ていると、唐突に医務室にやって来たのは、ヒスイだった。
そのヒスイは、先ほどまで走っていたようで、息を切らしている。
呼吸が整ったヒスイは、膝から手を離して、俺に向き直った。
「あのさ!!俺、ここから旅立とうと思うんだけど!ブランチはどうする?」
本当に唐突に来たその言葉は俺の頭の中を混乱させた。
「な、なんでだ?」
「そ、そりゃあ、センピゼントに帰るためだよ。」
「な、なぜ今?」
一応かれこれここに来てから大体5ヶ月は居る。
もう、ここから離れることは考えてないものだと思ったのだが…
「ま、まあ…言うなら俺とフウシが敵に狙われてるんだ。」
「敵に?」
「うん。アーサーってやつで、この前の事件や、トリスタンの上の存在。」
「トリスタン…」
俺は気絶したままのレレントレスさんを見た。
「それでな、フウシが、もし俺らがここにいたら、この国の住人の人たちに被害が及ぶかもしれないから、それだったらここを離れようって話になったんだ。」
「な、なるほどな…」
俺は気絶したままのレレントレスさんをもう一度見た。
彼女は、一点の方向をずっと向いている。
俺は少し広角をあげていると、ヒスイの方に踵を返した。
「俺は遠慮させてもらうよ。」
「な、なんで!?」
「今は、守るべきものを見つけたからかな。」
「そうか…まあ、残念だけど、いつかはまた会うからな。」
「そうだな。」
ヒスイは「それじゃ」と行って俺に背を向けた。
「最近、時の流れが早く感じるんだよな。なんでかな?」
「そりゃあ、お前がエルフ族だからだろ?当然じゃないか。」
「じゃあ、また近頃再開するか。じゃあな。」
そういうとヒスイは背中を向けたまま、医務室の扉を開いて出ていった。
「レレントレスさん。お前は俺が守るぞ。」
そう言って俺は石造のようにピクリとも動かないレレントレスさんの頬を手のひらで撫でた。
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