第22話 勇者の遺産
22話 勇者の遺産
俺は気迫を瞳の中に込めて、目の前にいる血だらけの女を睨む。
「フフフ…可愛い子が出てきたのね」
女は右耳から血を流し、顎からその赤い血を滴らせていた。
「お前は、許さない!!」
女の目は全開に開いていて、どうも普通ではない顔をしている。
「じゃあ、私のことを殺すの?それが貴方にできるかしらねぇ…」
「うるせぇ!!」
落ち着け…
確かにレレントレスさんはこれでもかと言うまでに傷つけられていた。
でも、あの傷なら魔王城の医療班がどうにかしてくれるはず!!!
「貴方を倒したら、その次はここの中心を落とすわ。アーサー様の名の元、この国を陥落させていただきます。」
女はナイフを握ったまま、紳士のようにお辞儀をした。
「俺に負ける気はないぞ。」
「そう?じゃあ、すぐにその気にさせてあげる。
女の周囲にいくつもの太陽のように輝く火の玉が現れると、その火の玉から、レーザーのような熱の光線が放たれる。
俺はそのレーザーをひょいと躱すと、発射地点の女の方向にへと、全速力で走る。
「あれ?私言ってなかったっけ?」
「!!!!!!」
俺はすぐさま、気配に気づき、上空へと飛び出す。
「私の能力、攻撃の角度を屈折させるだよ?」
やはり背後から迫ってきたのは、先ほど、かわした筈の魔法の光線だった。
「そんな空中にいてて、大丈夫?」
光の光線は、鏡に反射するようにして、屈折を繰り返すと、空中を舞っている俺に向かって真っ直ぐに飛んできた。
まずい!!
「勇者戦闘法!!
俺は魔力の粉になり、地面の近くで、実体化する。
「やっぱり魔法って、ワープする先に少し魔力が集中するよね?着地地点がバレバレなんだよね。」
俺は実体化すると、すぐに、地面を蹴って横に移動する。
俺が先ほどまでいた場所は白い光線によって覆い尽くされた。
「危なかったね〜さてと。私もそろそろ近接戦に入ろうかな。」
女は、手元のナイフを掲げると、空気を切って轟音と共に真っ直ぐ向かってきた。
「じゃあね!!!!」
次の瞬間、俺の胸元から血飛沫が上がった。
「あれ?確かに今、心臓を狙ったはず…」
「残念だったな。まだ生きてる…
俺は魔力を胸元に集中して流し、切られた部分を再生させた。
「女…お前、変な軌道したな?一直線に向かってくる筈なのに、一度、左に急に曲がってから、俺の剣のガードをすり抜けて、俺の胸を切ったよな?」
「まあね…私は自分にかかっている力の方向も屈折させられるからね。」
女は、ニヤリと笑って答えた。
「地獄を見せよう。貴方、私の攻撃を見切ってたでしょ?」
バレたか。まぐれだったと思わせておきたかったのだが、仕方ない。
「まあ、俺のスキル。
魔力の察知。それはこの世界はとても難儀な技の一つ。
そして、さっき、この女もその魔力の察知をしていた。
それは、この女が熟練の戦闘狂であることを示している。
「地獄?見せてみろよ!!!!」
慎重にいかなければならないな…
「
いくつもの光の玉が女を包み、光の玉は爆発するように光線となって放たれた。
俺は一気に足を全力で回し、光の玉の光線から逃れる。
「
避けた光線は、再び檻のようにして、俺を襲ってきた。
「クッソが!!!
俺は檻のような密度の光線を霧裂で避ける。
空中に浮いたまま、少し離れた女に向かって俺は空を斬る。
「勇者戦闘法、
すると、魔力の流れた剣から魔力の斬撃が女に向かって放たれた。
「逃さねえ!!!
俺は数回にわたって、女が現れた場所に魔力の斬撃を撃ち込む。
俺は空中をしばらく舞った後、無人の民家の屋根の上に立った。
「!!!」
キイイイイイイイイン!!!!!
「やはりバレてしまうか…」
俺は咄嗟に剣でガードしたことにより、後ろからの急な攻撃に耐える。
「俺の感知力を舐めんなよ!!!
俺はまたしても、目の前に剣の斬撃を放った。
だが、放った時には、すぐに、女はどこかに消えてしまった。
俺は剣を目の前に構える。
集中しろ…
相手の魔力の軌道を…
目を瞑ったままでも、感じ取れくらいに…
背後に騒めきを感じた…
勇者戦闘法。
それは魔力を応用した戦闘法。
その戦闘法の起源は、勇者の開発した、対魔王用の戦闘法。
その中でも、勇者はいくつかの技を愛した。
魔力を駆使することによって、自分の体を魔力に浸透させて、瞬間移動する技。
自分の魔力をあたりに散らし、分身を創り相手を惑わす技。
魔力を物に込め、一気に放出し、相手を焼き切る技。
そして、自分の腕に、全魔力を全て蓄積させ、一気に解放することによって、何万倍の力を出す技。
その戦闘法はあまりの速さに光もついていけず、遂につけられた名前は
「勇者戦闘法…残影!!!!!」
俺はすぐさま後ろへ振り返り、今持てる自分の魔力全てを込めた、最後の一発、残影を解き放った。
剣は背後に魔法で瞬間移動する、女に向かって一直線に、まるで糸に引っ張られるようにして、女の肩を切り裂く。
そして、女の脇腹から剣が出てくると、俺はそれを静止させた。
と同時に、あたりに風を撒き散らし、無人の民家の崩れた木材を遠くへと吹っ飛ばす。
「地獄で悔いろ。俺らに楯突いたことを。」
俺はその言葉を口から放つと、剣の刃についた血を振り落とした。
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