第20話 トリスタンは静かにできない
私はバックを受付から受け取ると、すぐに外で賑わっている街にでた。
「ここがアルフアルゴンかぁー!」
対して重くも無いバックを片手にぶら下げ、観光客を誘い込む商店街の大通りを大雑把に眺めると、私は
にしても、大型転移魔術陣をくぐり抜けて、一気にワープしてくると、少しながらも吐き気が私を襲う。
「うえええ…少しホテルに荷物置いてこよ…」
私は庶民を装った服装を纏いながら、大通りの大勢の人の流れに身を任せる。
「今なら短剣類50%オフだよー!」
「カシスの実10個、1ジューラ!安いよ安いよ!!」
大勢の人が流れていく中で、私は見たこともない店や名産を首を360度色々な方向に回して確認する。
「カシスって…なんだろ…」
それでも、人の流れは止まってくれず、私は仕方なく、「カシス」という果物を見逃すことにした。
私が群衆の中で、息を切らしていると、さらに他の店に見せつけるように
「ほらほら!!バンド街特製!カシスドリンク!!!飲んでいくかーい!?」
という、どこかの店の人の張り上げた声がした。
そして、それを聞きつけるや否や、人の流れは一気に変化する。
「カシスドリンク!?」
「あの有名な奴!?」
「いかねば!!!!」
さっきまで穏やかだった川が大雨が降り、濁流するかのように、荒れ始めたのだ。
「アアアアアアアアアアアア………」
私は人混みに包囲され、流れに身を任せる以外に手段はなかった。
私は一刻もここから抜け出そうと考え、人の流れの方へと積極的に進んでみる。
が、人の流れはある地点で急に変わり始めた。
気づくと人々は、何かに向かって手を伸ばし、「逃がさん」とばかりの眼力で何かを睨みつけている。
「あ、あれは…」
私が酔い気味で目を向けると、一階建ての石造の建物の看板に「カシスドリンク」という大きな看板がぶら下げてあった。
そういうことか。ここはカシスドリンクの本場の本場。
カシスドリンク屋だったのだ。
私は人々のとんでもない熱量に飲み込まれ、目の前がくらくらし始めた。
◇
「ふう〜助かった…」
私は先程の大通りから少し離れた噴水にて、休憩&水分補給をしていた。
噴水は太陽の光を反射し、鮮やかに輝き、その周りには子供たちが追いかけっこをしている。
実にのどかで平和的な風景だった。
噴水の置いてある道の周りには、人が何人か通っていて、とても死とはかけ離れた生活をしているように見える。
「豊かな国なんだなぁ〜」
私は黒のスカートを整え、漆黒と紅色で装飾された上着を着る。
そして、噴水から立ち上がる。
こんなのどかな生活。一瞬で壊れたら、みんなはどんな顔をするのかな…
ああ…考えただけでも興奮が止まらない…
私はその場で少し「うふふ…」と声が漏れてしまう。
あら、いけない!今日はあくまで観察目的なんだから…
アーサー王直属の13の円卓の一人の私が観察以外の仕事をして、変な動きをさせられては困る。
今日は我慢しないと!
私はトリスタン!優秀な女騎士なんだから!
私は頬をペチンと少し軽めに叩くと、荷物を噴水の置き場から持ち上げて、一番大きなホテルに向かって歩き出す。
噴水から離れ、少しずつ、人通りも減っていく。
ホテルまであと少し。
私は街を楽しみたいという純粋な観光客気分で、ホテルまで向かう。
「あーホテル楽しみだなー!」
と私がるんるんと良い気分で、ホテルに向かっていると、建物の壁に向かってボールをひたすら投げる子供の姿が目に留まる。
子供は、なぜだか何か睨むようにして、ボールをずっと壁に打ち付けていた。
「どうしたんだろう?」
と、私は子供の表情に釘つけになっていると、子供はボールを建物と建物の、暗い細い間に誤って投げ入れてしまった。
暗い路地…
子供…
人通りの少ない…
ぶら下げている鞄の中を開くと、小さな財布とテルドロームの会員証と明日の着替え。そして、少し大きなナイフが瞳に飛び込む。
私は汗を垂らしながらも、周りを眺め回す。
周りに人の気配は居ない。
私は欲望に抗えず、気づくと、暗い路地に光を注ぐ唯一の出口を塞いでいた。
路地の奥には、睨むようにして私を見ながら、「お姉ちゃん…誰?」と言う魔神の子供の姿があった。
私は子供から目を離さず、すぐに距離を詰めて、口を片手で塞ぐ。
「うぐっ!!」
私は子供の睨むような目付きに興奮しながら、ナイフを首に突き立てる。
「変なことしたら首…吹っ飛んじゃうよ…?」
私は赤ん坊を相手にするかのように優しい声で言った。
でも、子供はなぜか泣く気配すらない。
「こんな状況でも、冷静でいられるなんて、強いんだね。まあ、強がっても無駄だけどね。」
私は試しにナイフを持っている方の手で、子供の震える手を掴む。そして、まずはナイフを使って、右手の小指を落とした。
「んんん!!!!!!」
これには流石に耐えられず、子供は悲鳴を私の手のひらの中で叫ぶ。
「あ。騒いじゃったぁ♡じゃあ、もう一本♡」
私は次に薬指を落とした。
元々、薬指と小指の付いていた所からは、赤い血が流れている。
そして私はその血を見て、背中をゾクゾクと震えさせる。
「いい表情だよぉ♡ハァ…ハァ…次はぁ…親指!」
その掛け声とともに親指が中を舞う。
「xぁxあっァァァァァァぁ!!!!!!」
「良い顔♡」
そして、次に人差し指を切った。
そして、少年はここでようやく涙を流し始める。
「もう、中指しかないねー♡」
そして、少年は涙を流す目を開けると、震える手を自分の目の前に持ってきて、中指をまっすぐ上に立てる。
「へー。まだそんなことをする勇気があるなんて…すごいなぁ…」
その言葉が少年の耳に届くのと同時に、右手にある、最後の指は切られる。
私は血がベッタリついたナイフの赤い液体を舌で少し舐める。
「んん…美味しい…」
と私はしばらく、血の味をじっくりと味わうと、ついに、メインディッシュを喰らうことにする。
「それじゃあ、ちょっとずつ、死んでいこうね♡」
「ううぅうぅうぅぅううう!!!!!!!」
と、私が、ナイフの刃を子供の喉仏に少しずつ入れ込む。
「ねー!ブランチくん!どう?楽しい?」
「た、楽しいですけど…レレントレスさん…べっとり腕に引っ付くのはやめてください…それと、その『くん』呼びも…」
「いいじゃん♡仲良くなったんだから…」
人!?なぜここに!?まずい…ここを見られたら…
遠くから、男女の声がし、私は少年の口を息ができないほどまでにガッチリと閉める。
とりあえず、魔力の存在を隠して…魔力の薄さを薄くして、オーラを無くす…
「ううう…」
私は少年が気絶していることにも気づかず、隠れることに全神経を集中した。
「ぼ、僕はそ、その少し恥ずかしくて…」
声が近づいてくる…
「でも、最初出会った時は私にナンパ?してきたよね…?もしかして、意外とウブなの?」
心臓が高鳴り、私はあらかじめ、いつ来ても良いようにナイフを構える。
「そ、そんなこと…って…誰かいます?」
「!?」
光が注がれる路地の出口から、人の影が見えた。
そして、なんとも、か弱そうなゴブリンと目が合った。
「な、なにをしてるんですか?」
「ック!!」
私は気絶している少年の頭の髪の毛を無理矢理掴み、光がさす出口の方向に、首元にナイフの刃をめり込ませた子供を突き立てる。
「え!?」
「変な動き、大声、助けを呼ぶ行為。それらをした場合。この人質の子供の首を跳ね飛ばします。」
「ブランチくん…少し待ってて…」
男女のうちの女がなぜか不用意に路地の方に歩み寄ってきた。
「こ、来ないでください!!!!!この子がどうなっても良いの!?」
まずい…ここで、首を切ってしまったら、私には盾がなくなる。
よって不用意に近づくこともできない。
私は少し後ろに後退したが、すぐにコンクリートの壁に背中が着く。
「勇者戦闘法…
と、女が呟くと、いつの間にか、私の手元には、子供が居なくなっていた。
そして、私が慌てていると、女が男の後ろに急に現れ、さっきまでの人質を抱き抱えていた。
「ブランチくん。治癒系の魔法って使える?」
「い、いや僕はあんまりそういうの使えなくて…」
「仕方ない。私が魔法を使うから、その人捕らえてくれる?」
「わ、わかりました!」
と、その一連の会話をすると、私を捉えるべく、男は少し怖気ながらも攻め寄ってくる。
アーサー様…
どうやら今回の任務は失敗してしまいそうです…
「
町中に轟々とした爆発音が響き、あたりを黒い煙が包む。
そして、その中から私は出ると、
「隠密作戦?は、私には向いてないようです…パーシヴァルさん…」
と呟く。
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