第20話 トリスタンは静かにできない

私はバックを受付から受け取ると、すぐに外で賑わっている街にでた。

「ここがアルフアルゴンかぁー!」

対して重くも無いバックを片手にぶら下げ、観光客を誘い込む商店街の大通りを大雑把に眺めると、私は転移港てんいこうから出た。

にしても、大型転移魔術陣をくぐり抜けて、一気にワープしてくると、少しながらも吐き気が私を襲う。

「うえええ…少しホテルに荷物置いてこよ…」

私は庶民を装った服装を纏いながら、大通りの大勢の人の流れに身を任せる。

「今なら短剣類50%オフだよー!」

「カシスの実10個、1ジューラ!安いよ安いよ!!」

大勢の人が流れていく中で、私は見たこともない店や名産を首を360度色々な方向に回して確認する。

「カシスって…なんだろ…」

それでも、人の流れは止まってくれず、私は仕方なく、「カシス」という果物を見逃すことにした。

私が群衆の中で、息を切らしていると、さらに他の店に見せつけるように

「ほらほら!!バンド街特製!カシスドリンク!!!飲んでいくかーい!?」

という、どこかの店の人の張り上げた声がした。

そして、それを聞きつけるや否や、人の流れは一気に変化する。

「カシスドリンク!?」

「あの有名な奴!?」

「いかねば!!!!」

さっきまで穏やかだった川が大雨が降り、濁流するかのように、荒れ始めたのだ。

「アアアアアアアアアアアア………」

私は人混みに包囲され、流れに身を任せる以外に手段はなかった。

私は一刻もここから抜け出そうと考え、人の流れの方へと積極的に進んでみる。

が、人の流れはある地点で急に変わり始めた。

気づくと人々は、何かに向かって手を伸ばし、「逃がさん」とばかりの眼力で何かを睨みつけている。

「あ、あれは…」

私が酔い気味で目を向けると、一階建ての石造の建物の看板に「カシスドリンク」という大きな看板がぶら下げてあった。

そういうことか。ここはカシスドリンクの本場の本場。

カシスドリンク屋だったのだ。

私は人々のとんでもない熱量に飲み込まれ、目の前がくらくらし始めた。






「ふう〜助かった…」

私は先程の大通りから少し離れた噴水にて、休憩&水分補給をしていた。

噴水は太陽の光を反射し、鮮やかに輝き、その周りには子供たちが追いかけっこをしている。

実にのどかで平和的な風景だった。

噴水の置いてある道の周りには、人が何人か通っていて、とても死とはかけ離れた生活をしているように見える。

「豊かな国なんだなぁ〜」

私は黒のスカートを整え、漆黒と紅色で装飾された上着を着る。

そして、噴水から立ち上がる。

こんなのどかな生活。一瞬で壊れたら、みんなはどんな顔をするのかな…

ああ…考えただけでも興奮が止まらない…

私はその場で少し「うふふ…」と声が漏れてしまう。

あら、いけない!今日はあくまで観察目的なんだから…

アーサー王直属の13の円卓の一人の私が観察以外の仕事をして、変な動きをさせられては困る。

今日は我慢しないと!

私はトリスタン!優秀な女騎士なんだから!

私は頬をペチンと少し軽めに叩くと、荷物を噴水の置き場から持ち上げて、一番大きなホテルに向かって歩き出す。

噴水から離れ、少しずつ、人通りも減っていく。

ホテルまであと少し。

私は街を楽しみたいという純粋な観光客気分で、ホテルまで向かう。

「あーホテル楽しみだなー!」

と私がるんるんと良い気分で、ホテルに向かっていると、建物の壁に向かってボールをひたすら投げる子供の姿が目に留まる。

子供は、なぜだか何か睨むようにして、ボールをずっと壁に打ち付けていた。

「どうしたんだろう?」

と、私は子供の表情に釘つけになっていると、子供はボールを建物と建物の、暗い細い間に誤って投げ入れてしまった。


暗い路地…

子供…

人通りの少ない…


ぶら下げている鞄の中を開くと、小さな財布とテルドロームの会員証と明日の着替え。そして、少し大きなナイフが瞳に飛び込む。

私は汗を垂らしながらも、周りを眺め回す。

周りに人の気配は居ない。

私は欲望に抗えず、気づくと、暗い路地に光を注ぐ唯一の出口を塞いでいた。


路地の奥には、睨むようにして私を見ながら、「お姉ちゃん…誰?」と言う魔神の子供の姿があった。

私は子供から目を離さず、すぐに距離を詰めて、口を片手で塞ぐ。

「うぐっ!!」

私は子供の睨むような目付きに興奮しながら、ナイフを首に突き立てる。

「変なことしたら首…吹っ飛んじゃうよ…?」

私は赤ん坊を相手にするかのように優しい声で言った。

でも、子供はなぜか泣く気配すらない。

「こんな状況でも、冷静でいられるなんて、強いんだね。まあ、強がっても無駄だけどね。」

私は試しにナイフを持っている方の手で、子供の震える手を掴む。そして、まずはナイフを使って、右手の小指を落とした。

「んんん!!!!!!」

これには流石に耐えられず、子供は悲鳴を私の手のひらの中で叫ぶ。

「あ。騒いじゃったぁ♡じゃあ、もう一本♡」

私は次に薬指を落とした。

元々、薬指と小指の付いていた所からは、赤い血が流れている。

そして私はその血を見て、背中をゾクゾクと震えさせる。

「いい表情だよぉ♡ハァ…ハァ…次はぁ…親指!」

その掛け声とともに親指が中を舞う。

「xぁxあっァァァァァァぁ!!!!!!」

「良い顔♡」

そして、次に人差し指を切った。

そして、少年はここでようやく涙を流し始める。

「もう、中指しかないねー♡」

そして、少年は涙を流す目を開けると、震える手を自分の目の前に持ってきて、中指をまっすぐ上に立てる。

「へー。まだそんなことをする勇気があるなんて…すごいなぁ…」

その言葉が少年の耳に届くのと同時に、右手にある、最後の指は切られる。

私は血がベッタリついたナイフの赤い液体を舌で少し舐める。

「んん…美味しい…」

と私はしばらく、血の味をじっくりと味わうと、ついに、メインディッシュを喰らうことにする。

「それじゃあ、ちょっとずつ、死んでいこうね♡」

「ううぅうぅうぅぅううう!!!!!!!」

と、私が、ナイフの刃を子供の喉仏に少しずつ入れ込む。

「ねー!ブランチくん!どう?楽しい?」

「た、楽しいですけど…レレントレスさん…べっとり腕に引っ付くのはやめてください…それと、その『くん』呼びも…」

「いいじゃん♡仲良くなったんだから…」

人!?なぜここに!?まずい…ここを見られたら…

遠くから、男女の声がし、私は少年の口を息ができないほどまでにガッチリと閉める。

とりあえず、魔力の存在を隠して…魔力の薄さを薄くして、オーラを無くす…

「ううう…」

私は少年が気絶していることにも気づかず、隠れることに全神経を集中した。

「ぼ、僕はそ、その少し恥ずかしくて…」

声が近づいてくる…

「でも、最初出会った時は私にナンパ?してきたよね…?もしかして、意外とウブなの?」

心臓が高鳴り、私はあらかじめ、いつ来ても良いようにナイフを構える。

「そ、そんなこと…って…誰かいます?」

「!?」

光が注がれる路地の出口から、人の影が見えた。

そして、なんとも、か弱そうなゴブリンと目が合った。

「な、なにをしてるんですか?」

「ック!!」

私は気絶している少年の頭の髪の毛を無理矢理掴み、光がさす出口の方向に、首元にナイフの刃をめり込ませた子供を突き立てる。

「え!?」

「変な動き、大声、助けを呼ぶ行為。それらをした場合。この人質の子供の首を跳ね飛ばします。」

「ブランチくん…少し待ってて…」

男女のうちの女がなぜか不用意に路地の方に歩み寄ってきた。

「こ、来ないでください!!!!!この子がどうなっても良いの!?」

まずい…ここで、首を切ってしまったら、私には盾がなくなる。

よって不用意に近づくこともできない。

私は少し後ろに後退したが、すぐにコンクリートの壁に背中が着く。

「勇者戦闘法…霧裂キリサキ

と、女が呟くと、いつの間にか、私の手元には、子供が居なくなっていた。

そして、私が慌てていると、女が男の後ろに急に現れ、さっきまでの人質を抱き抱えていた。

「ブランチくん。治癒系の魔法って使える?」

「い、いや僕はあんまりそういうの使えなくて…」

「仕方ない。私が魔法を使うから、その人捕らえてくれる?」

「わ、わかりました!」

と、その一連の会話をすると、私を捉えるべく、男は少し怖気ながらも攻め寄ってくる。

アーサー様…

どうやら今回の任務は失敗してしまいそうです…

終着点ターニングコネクト

町中に轟々とした爆発音が響き、あたりを黒い煙が包む。

そして、その中から私は出ると、

「隠密作戦?は、私には向いてないようです…パーシヴァルさん…」

と呟く。






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