第19話 レレントレスさんとの休日
「ほら!ブランチ!早く行こ!」
「ちょ、ちょっと待っててください!!準備があるんですから!」
木造に造られた、森にポツンと建っているレレントレスさんの一室。
そこに俺、ブランチ・メオリマスは泊まっていた。
時刻は8時53分。朝日が窓の外から差し込んでいて、ポカポカとしていて、気持ちがいい。
「ま、こんなんでいいか。」
俺はレレントレスさんから貰った服を着込むと、ガチャリとドアノブを回して、廊下に出た。
廊下には首から赤いリボンをぶら下げて、後ろに手を組んでいるロングヘアーのレレントレスさんが居た。
「あ!ブランチ!どう?可愛い?」
モジモジと肩を揺らしながら頬を赤く染めている彼女はどうやらある言葉を求めているようだ。
「え、えっと…ま、まぁ…可愛いですけど…」
俺がそう言うと、少女は何か満足したような顔で、「へへ…よかった…」と小声で呟いた。
「それじゃあ、いこ?」
少女は玄関の扉を開き、光とともに手を差し伸べてくる。
逆光で表情は見えないが、口元が曲がっているのは見えた。
「あ、はい。」
と俺は言うと、その彼女の手を優しく握った。
俺たちはいつもの訓練場の一番大きな岩を眺めながら、少し歩くと、遠くの方に屋根と小さなベンチがついた、
「あとどれくらいでくるのかな?」
「えーっと、ここの時刻表には、次に来るのは9時10分って書いてあるので、もう少しなんじゃないですか?」
「ふーん。じゃ、ちょっと待ってよっか!」
「そうですね。」
上空を見上げると、空には、綺麗なブルーが広がっていた。そして、そこに所々に白くなっている雲は、青く塗りつぶした絵の中にペンキをこぼしたようだ。
「そういえば、地味に私たちって、出かけるの初めてだよね?」
「そうですね。いつも、修行ばっかりしてるから」
俺がその言葉を言うと、レレントレスさんは目の前に持っている小さなバックを抱えて少しだけ笑う。
「どうしたんですか?」
「いやさぁ〜ブランチとこうやって、買い物に行くのが、楽しみでさ♡」
「なるほど。」
そう。
今日はレレントレスさんと、中央都市に行き買い物。まあ、洋服類を買う予定だ。
なぜなら俺は急に転送してこられて、服を1着しか持っていないからだ。
そのため、食料や水の確保はできるが、衣服の確保はできていない。
そんなわけで、とりあえず最近はレレントレスさんの服を着ているが、それも、流石に限度があるため、そろそろ新たな服を買う時であろう。
ふう。今日は休めるぞぉー!!!!!!
最近レレントレスさんに追いかけられる日々ではあったからな。
まあ、言うてそのおかげで、魔力の操作方法や特性は何となく理解してきているから良いんだけどね。
「あ!ブランチ!来たよ!!」
「え?」
上空に目線を上げると、そこには強烈に光る太陽の姿と、大きな影を地面に映し出しているスカイオムニバスの竜の姿があった。
「ほんとだ。」
にしても、竜の大きさが半端じゃないな。
センピゼントでは、せいぜい竜の大きさは一番大きくても、8mだったのに、ここの竜は13mはあるだろう。本当に大きく、竜は音も立てずに地面に着地すると、翼を広げ、停留所を包む影を作る。
「ありがと!」
とレレントレスさんは言うと、竜の足が握っている小さな四角い部屋の中に入る。
俺は少し残り上を見上げると、ゴーグルをかけて、竜にまたがう獣人の姿が見えた。
「ブランチ!早く!」
その場でその獣人の姿を少し見ると、レレントレスさんの呼び声に「はーい。今行きまーす」と答えて、俺も部屋の中に入った。
部屋の中は赤い布のゆったりとくつろげるような椅子が4列並んでおり、その真ん中に小さくだが、通路があった。
俺はその中から、レレントレスさんが乗っている椅子を探し、隣に座った。
「私、意外とスカイオムニバスに乗るの初めてかも!」
「そうなんですか?」
「ねえねえ!スカイオムニバスってどんな感じなの?」
目を輝かせて、プレゼントをもらうかのようにキラキラしているレレントレスさんの瞳をみて、俺は少し戸惑いながらも、「ま、まあ…いつも飛んでるみたいに浮遊感がある?って感じですかね…」
「へー!楽しみ!」
俺はニコニコとしながら、頭を揺らしているレレントレスさんをじっとみていた。
「ん?どうしたの?」
「あ…」
と、ここで俺がレレントレスさんに釘付けになっていたことに気づく。
「あ、いや、何でも。」
父さんもこんなこと思っていたのかな…
しばらくすると、スカイオムニバス特有の浮遊感が襲ってくる。
窓の外を見ると、ゆっくりとだが、地面から遠ざかっていく。
このスカイオムニバスは多分20人は収容できるだろうが、今スカイオムニバスの中には俺とレレントレスさんしか居なかった。
「うわ!浮いたよ!すごいすごい!」
レレントレスさんは小さな子供のように窓に釘付けになって外を見る。
俺は何か勘違いをしていたのだろうか。
ふと、ここで気になる疑問が湧いた。
それは、レレントレスさんの年齢だ。
俺は今まで、あんなすごい精密な魔力の操作をみてしまっていたことで長い年月の修行を経て会得したものだと思っていたが、まさか才能なのか…?
試しに耳元の髪を少しかき分けてみる。
そして、先ほどまではロングヘアーで見えなかった耳が顕となる。
「え…?ど、どうしたの?」
尖った耳。
エルフ族だ…
うわー…これどっちなんだ!?
少し前に聞いた話だが、エルフ族は魔力の扱いに長けていると言われている。それは、エルフ族に伝わる秘伝があるから。という逸話を聞いたことはあるが…
「ブランチ?どうしたの?」
じっくりと考え込んでいる俺を覗き込んでいたのは、レレントレスさんだった。
「あ!え、えっと…」
どうしよう…今聞こうか…
「なんかあった?」
「え、えっと…れ、レレントレスさんって何歳ですか?」
聞いてしまった。
前、女性に年齢を聞くことは良くないって誰か…いや、ヒスイが言ってたような…
「え?私?今…15かな?」
めっちゃ若かった…
「ブランチは?」
あ、まあ、そうくるか。
「え、えっと…16ですね」
その言葉を聞くなり、レレントレスさんは、両手を口元にやり、「年上!?」とオムニバスの中に響かせる。
「え、はい…」
「そ、そうなんだね…」
「まさか、レレントレスさんが、そんな年下とは…そのような精密な魔力操作はどうやって?」
「え、えっとね…ずっと前の話なんだけど…私が住んでるエルフの森がさ、魔物に襲われて、全滅しかけた時があったの。その時に、私の両親と、兄が殺されて、その時の怒りと悲しみで、何となく魔力操作を覚えたの。そのおかげで、私は自己防衛はできたけど、村の人たちは全員死んだ。そして、私が疲れた果てに森の中をふらふらと彷徨っていたら、前の国王様…カルジ様に拾われて、この小さな森に家を貰えたってわけ。」
「そ、そうなんですか…」
「そう。まあ、そのことがあったのも、5歳だったし、今はそんな覚えてないから良いんだけどね。」
レレントレスさんはそう言いながらも口元は笑ってはいたが、瞳の中はなぜか悲しさの色で染まっている気がした。
5歳なんて、よくよく考えれば、母親に頼っていたい時期なはずなのに、母親が殺されたなんて、悲しいに決まっている。
この人は強がっていると、わかると、俺は少し、守りたくなってくる。
「そういえばさ、別に敬語使わなくても大丈夫だよ!ブランチの方が年上なんだし。」
「え、ですが…」
「いいの!私はその方が嬉しいから!」
俺は少し悩んだが、やがて、「わかった。」とレレントレスに言った。
と、レレントレスが、ここで窓の外に目を向けると、「あ!着いたみたいだよ!」と言った。
「え?」
俺は窓の外に目を向けると、すぐ遠くに壁が配置してあり、その手前には、魔王場ほどの大きさの城のような建物。
そして、その城に続く一本の道と、その一本の道を囲うようにして、立っている少し高い石造の建物。
そして、一本の道には何人もの人の姿。どうやらだいぶ栄えているように見えた。
「ここが商業施設の集まったアルフアルゴンの街!バント街だよ!アルフアルゴンの中で二番目に大っきい街なんだよね!!」
「へー。」
俺は空から見る、栄えている街を眺めていると、唐突に、ドンと言う衝撃を感じた。
どうやら、停留場に泊まったようだ。
「それじゃ、行こう!」
そういうと、レレントレスさんは座席から立ち上がる。
レレントレスさんは出口に設置されている集金箱にお金を入れると、オムニバスの出口の扉を開いてバンド街の地面を踏んだ。
バンド街は、商人たちの声で賑わっていて、騒がしくも、なぜかワクワクする。
そんな街だった。
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