魔王城編

第6話 小説家のモルドレット

「あれぇ…俺らって試験場からあの待合室に戻るって話だったよな…?」


「うん、そのはずなんだけどな…」


 さっきまで居た試験会場の塔。そこから移動魔術を使って多分だが、本当は待

ち合い室に行くはずなんだ。そう、あの賑やかな街に戻るはずなんだが…


「一つ質問して良いか?」


「ああ…いいぞ」


 目の前に広がる光景を見ながら、俺の冒険者の同期、ブランチ・メオリマスは言った。


「ここってどこだ?」


 目の前には緑が溢れる森、そしてさっきまで夜のようだったのに朝日のようなものが、目の前にある山脈の隙間から光を放つ。真上には朝の空が広がり、あと数歩前に出れば、崖に真っ逆さまだ。


「いわゆる、ファイナル構図ってやつか…」


 ブランチは向き直り目の前の朝日から焦点を俺の顔へと向ける。


「もしかしてこれさ。どこか遠くの場所なんじゃない?」


「どう言うことだ?」


「まあ、要するに、よくわからない所に俺は転移された訳。」


 俺は唾を飲み込む


「て、転移って…」


「要するに俺らは今、もしかしたら他国に送られたのかもしれないな…」


 俺は両手で顔を塞いで、しゃがみ込む


「うわまじかよぉ……」


 そして、ブランチはまた、朝日を眺めながら言う


「まあ…ポジティブに考えれば、要するに、一足早く、冒険の旅に出れたって訳か…まだ何の準備もしてなかったけど…」


「俺、明日バイトあるんだけど…」


 俺が弱音を吐いていると、ブランチは大きく笑った。


「ハハハ!!別にバイトなんかどうでも良いだろ!!まあまあ、余裕そうじゃん!」


「バイトの先輩怖いんだけど…」


「そうか!!ハハ…それはどんまいだな!!!」


「ちゃんとした慰めをしてくれよ…」


 するとブランチは朝日に向かって手を掲げた。


「まあ、ここから俺らの冒険が始まるわけか…」


「要するにお前…いや、ブランチとはパーティーメンバーな訳か…」


「ああ!そういうことになるな!!よろしく頼むぜ!!」


 ブランチは地面に座っている俺に手を差し出した。


 俺はその手を強く握る。


「ああ。よろしくな」


 どうやら、俺の冒険者ライフがついに始まるみたいだ。


「う〜ん!!楽しそうじゃあないか!!!」


 すると、後ろから声がしたので、振り返る。


「ん?誰だ?」


 と、そこに居たのは、白いスーツ姿の男性。首には黄金色のネックレスが何種類もぶら下げており、両手の親指と人差し指で四角を作り、その四角の中から俺らの事を覗き込んでいた。


「お!ちょうど良い所に人がいるじゃん!!ここがどこか聞いてみようぜ!!」


「ああー良いなそれ」


 と会話を交え、その奇妙なポーズをとっている男性に問いかける。


「すいませーんそこの人、ここってどこですか?」


「君たち!!本は読んだことあるかい?」


「え?」


 俺は予想外の問いに少し固まる。


「え、本…ですか?」


「ああ!本だ!読んだことがあるか聞いているんだが…」


 本…ライトノベルは入るのだろうか…


「まあ、俺は一様読んだことあるぜ!それよりここってどこ…」


「あるのか!!それはどういう本なんだ!?!?」


 男性は一気に攻め寄ってきて、ブランチの方をがっしりと掴む。


 ブランチはその男性を話そうと思ってもなかなか離れないのか、真上の方に視線を向ける。


「え、えーとだな…まあ、神話とか…?」


 ブランチはキツそうに言った。


 へー。この世界にも神話という概念があるのか…


「うーん!!実にスバらしい!!!!ファンタスティックだ!!!神話とは神々の書物!!!それは実に良いなあ!!!」


 すると男性はどこからか本を出し、真ん中あたりのページを適当そうに開く


「僕の名前はシュペリート。まあ、ここではモルドレットと言っておこう。」


 モルドレット。それってアーサー王伝説の奴かな


 ということはこの人の上司はアーサーか。


「僕、このモルドレットはね!とても本が大好きなのさ!!君たちも一回はある

だろう?好きな人に恋をする。僕はねえ!!本に恋をしたんだ!!!あの、紙の肌触り!!!縦に整列する文字!!!奥深い物語のストーリー!!!本当に大好きで大好きで堪らないよ!!!」


 モルドレットと名乗ったこの男はまるで天に召されたこのような幸福な顔になる。


「それで、本がとても大好きな訳だけどさ。僕って、実はあんまりお金がないんだ。だから新しい本が手に入らない。でもそんな時にね!!君を殺したら、お金をあげるって人が居たの!!」


「え?お、俺を殺したら??」


「そう!!君、ヒスイ君を殺したら!!!」


 俺は少し戸惑う。え?なんで俺が?


「君、隠し持ってるけど、めっちゃ強いスキル持ってるでしょ?それが、今後の平和の邪魔になるんだってさ!」


「お、俺が!?」


 すると、モルドレットは一風変わって奇妙なオーラを出し始めた。


「僕のスキルは本に書いてある物を現実に引き出すスキル。このスキルは意外と便利でね。色んな物を出せちゃったりするんだ。例えば、こんなふうにね。スキル:仮想世界イマジネーション


 モルドレットはその言葉を唱えると、片手に持っていた開いていた本のページが光始める。


「この本はね。僕のおすすめの本の一つで、主人公が母を攫った怪物を倒しに行くっていう物語なんだけど、その中で主人公は聖剣を手に入れるんだ。何でも切って、何でも消し去る聖剣。これで君を殺させてもらうよ」


「これって意外と絶体絶命ってやつ?」


「まあ、後ろは崖な訳だからな。そうかも。」


 ブランチは後ろに広がる崖を認知した。


「それじゃあ僕は行かせてもらうよ」

 モルドレットは剣を片手に握り、勢いよく地面を蹴った。


「岩壁!!!」


 ブランチは魔法を唱え、目の前に岩の壁を出現させた。「今だ!!俺を信じて、崖に飛び込め!!!」


 俺は首を縦に振ると、勢いよく、崖の下に飛び込む。ま、何とかなるでしょ!!!!!


 俺は少しの間、浮遊感を覚えジェットコースターに乗ったような感覚が神経を伝わる。


「スライム!!!」と唱えたブランチの手から、真下に向かって水の玉のような物が地面に向かって放たれる。


 すると、水の玉は次の瞬間、まるでクッションのように崖下で俺らを受け止める。


「うおお!!すげえ」


「早く降りないと!!あいつが来るぞ!!」


 そうだった!!俺は水の玉から飛び降りて、森の中へと颯爽と駆け出す。


「まずい!!来るぞ!!避けろ!!!」


「え?」


 真上を向くと、黒い影がこちらに迫ってくるのが見えた。


「おい!!!早く避けろ!!!」


 俺はその言葉通りに真横に転がると、すぐ数秒後に大きな衝撃波が、地面から襲ってきた。


「いやー。水魔法のスライムか。衝撃を減らし、衝撃の起きた方向へ衝撃を返す。防御としても、優秀だし、クッション性能もある。なかなかやるじゃないか!!良いじゃないか!!」


 後ろにいたブランチは喉を鳴らした後に言う。


「仕方ないな…戦ってみるしかないか!!!」


 ブランチは手から岩の剣を出す。


「ヒスイ!!何ができる?」


 あいつの強さはオーラから何となくわかる。


 でも…


「5分…5分あれば、あいつを確実に仕留められる!!!」


「シャア!!じゃあ任せろ!!」


「だ、だが!!」


「俺のことは気にするな!!どうぞ、やってくれ!」


 俺はその言葉を聞くと、黙って頷いて、森の奥へと向かった。


「あれあれ?行ってしまったな。」


「お前の相手は、こ、この俺だ!!!」


「まあ、すぐに追いつけるしな。まあ、相手をしてやろうじゃないか!!!!」



 俺は森の奥に隠れ、座り、集中する。


「スキル、黒板!!!」


 俺は集中して、目の前の空間に丸い円を白い線で描き始める。


 俺のスキルの応用編の最骨頂…ここで見せてやる!!!









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