痛定思痛

痛定思痛

　制服姿の人間が私のところへとやってきてからというもの、私という人間がその場に存在していたという証拠を残さないようにするべきだと考えるようになった。

　ゆえに、愉しんだ後は、相手を処分することにした。

　何度も愉しみたいという欲望から、相手の肉体を残していたために、その相手と親しかった私のところへと制服姿の人間がやってきたことを思えば、仕方の無いことである。

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　両手足の指では不足するほどの女性と愉しんだが、私はその全ての女性のことを憶えている。

　女性たちに対する私の想いが強いということの証左であり、それが悪いことであるとは考えていない。

　だが、自身の立場が危うくなってしまうほどにのめり込んではならない。

　そのような感情を抱けば、相手を処分することができなくなってしまうからだ。

　今後も多くの女性たちと愉しむためには、心を鬼にしなくてはならないのである。

　しかし、女性たちを処分する際に、私の涙が止まることはなかった。

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　初めて彼女の姿を目にしたとき、それまで関係を持った女性たちが霞んでしまうほどに、私は見惚れていた。

　だが、彼女もまた他の女性たちと同様に、私のことを見下すのだろう。

　だからこそ、私は女性たちを強制的に沈黙させた後に愉しんでいたのである。

　しかし、私の想像に反して、彼女は私を劣った存在として扱うことはなく、他の人間たちと同じような態度で接してくれた。

　その姿を見て、私は完全に心を奪われてしまったのである。

　それから私は、良い人間として振る舞い、私に対する彼女の評価を高いものにする努力を続けていった。

　他の人間よりも、明らかに私と過ごす時間が多くなってきた頃、私は想いを伝えようとしたが、それよりも先に、彼女がとある男性のことを私に紹介してきた。

　いわく、数年前から交際をしていたが、結婚を決めたということだった。

　良き友人である私に対して、誰よりも先に伝えたかったのだと笑顔で語る彼女を見たとしても、私の気分が晴れやかになることはない。

　気が付けば、彼女の生命活動は終焉を迎えていた。

　最愛の女性の生命を奪ってしまったことに後悔し、涙を流したものの、もう戻ることはないのだということを思ったとき、私はそれまでの女性たちと同じようにして、彼女と愉しむことにした。

　だが、彼女のことを処分することは、出来なかった。

　処分しなければ、私の立場が危うくなることは理解している。

　しかし、彼女をこれ以上苦しませることは、避けたかったのだ。

　既に彼女が何かを感ずることなど不可能と化しているということは分かっていたのだが、こればかりは、理屈ではなかったのである。

　ゆえに、私は制服姿の人間たちが私を捕らえるまで、朽ちていく彼女と愉しみ続けたのだった。

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　青い顔をしながら戻ってきた男性から、嘔吐した後のような臭いが漂ってきた。

　何か悪いものでも食べたのだろうかと問うたところ、男性は目を丸くした。

　だが、即座に口元を緩めると、首を左右に振った。

　朝から体調を崩していただけだと告げた後、男性は私に向かって頭を下げ、感謝の言葉を吐いた。

＊＊＊

　天井を見つめながら、私は彼女のことを思い出していた。

　彼女の生命を奪うようなことがなければ、私はこのような狭い部屋で過ごすことはなかっただろう。

　では、彼女と特別な関係を築くことなく、友人としての時間を過ごし続けるべきだったのだろうか。

　そのことを考えると同時に、私は首を横に振った。

　私が彼女に近付いたのは、彼女と特別な関係を築くためだという目的が存在していたためであり、それ以外の理由で彼女と共に過ごすことなど、考えることはできなかった。

　ゆえに、反省すべき点は、これまでの女性と同じようにして、彼女の身体を処分するべきだったということである。

　そうしていれば、私は今も様々な女性と愉しむことができていただろう。

　勿論、彼女を超えることが出来る女性などこの世界には存在していないだろうが、慰めにはなる。

　次なる相手はどのような女性にするべきかと考えながら、私は目を閉じた。

　そのような生活を何十年と続け、肉体的には衰えてきたものの、私の想像力が弱体化することはなかった。